「あっ! ソフィアちゃん! おきてくれて、よかったー! ママをよんでくるねー!」

 突然、耳元で子供の声が聞こえたかと思うと、トコトコと小さな子供が何処かへ向かって行く後姿が見えた。

「今の子、金髪だったけど……ここはどこ?」

 何故か草むらの上で眠っていたみたいだけど、どうしてこんな所にいるのだろうか。
 職場にはどう行けば良いのだろう。
 早く明日の打ち合わせの資料を仕上げないといけないのに。
 ひとまず立ち上がると……どこかの森の中みたいだけど、生えている木がどれも物凄く大きい。
 それと、どういう訳かやけに視界が低い。

「待って……ウソでしょ。ウソって言って……あぁぁぁ、手が小っちゃいぃぃぃっ!」

 視界が低いのが気になって自分の手を見てみると、子供みたいな小さな手だった。
 足も小さくて、肩まで伸びていた自分の髪の毛は……金髪!
 これは、いわゆる異世界転生ってやつ!?
 そう思っていたところで、小さな女の子を抱きかかえた、金髪の大人の女性がやってきた。

「ソフィアちゃん……良かった。木から落ちたって聞いた時は驚いたけど、目を覚まして良かったわ」
「あの、ここは何処なんでしょうか」
「えっ!? 大丈夫!? あの破天荒……こほん。元気なソフィアちゃんが、そんな話し方をするなんて……念の為、長老に治癒魔法を使ってもらいましょうか」

 ひとまず私の名前がソフィアだという事がわかったところで、女性に連れられて古い小屋へとやってきた。
 そのまま中に入ると、金髪のお爺ちゃんがいて、先程の女性が事情を説明する。

「長老。ソフィアちゃんが木の上から落ちてしまったみたいで、話し方が変なんです」
「ふむ……確かに、いつもならジッと待っていられずに、何処かへ走り去ってしまう所だが、今日は大人しいな」
「でしょう? 念の為、治癒魔法を使ってもらえないでしょうか」
「そうだな。……ヒール!」

 お爺ちゃんが私に手をかざすと、身体が淡い緑色の光に包まれる。
 手品……ではないと思う。
 何となく身体が温かい気がするし、女性が言う通り魔法……なのだろうか。
 少しすると、お爺ちゃんが手を降ろし、私を包んでいた光も消える。

「これで大丈夫だと思うが……暫し様子をみよう」
「そうですね。ありがとうございます」
「ちょーろー! ありがとー!」

 女性と、その腕に抱かれた小さな女の子がお礼を言っていたので、ひとまず私もそれにならって頭を下げておく。

「あの、長老さん。ありがとうございます」
「……ううむ。あのソフィアが……明日は雨でも降るのか?」

 うーん。物凄く酷い言われようだけど……それよりも気になる事がある。
 さっきの魔法が本当だとすると、おそらく異世界へ転生していて、ここは魔法がある世界だ。
 つまり私にも魔法が使えるのではないだろうか。

「あの、長老さん。さっきの治癒魔法っていうの、私にも使えますか?」
「おぉ! ソフィアが魔法に興味を! よしよし。ワシが教えてやろう。今から頑張れば、大人になる頃には使えるであろう」
「本当ですかっ!? やるっ! やりますっ! 是非、私に魔法を教えてくださいっ!」
「なんと……ソフィアがここまでやる気を見せるとは。息子たちは教育に失敗したなどと言っていたが、そんな事はないではないか。ワシがエルフの長老として……いや、祖父としてソフィアを立派なエルフに育てるぞ!」

 あ、この長老さんって、私の――ソフィアの祖父だったんだ。
 という事は、この人の血を受け継いでいる訳だし、きっと魔法が使えるようになるよね……って、ちょっと待った!

「え、エルフ!? お爺ちゃんってエルフなの!?」
「何を言っておるのだ。ソフィアも……というか、全員エルフではないか。……やはり頭の打ちどころが悪かったのか?」

 どういう訳か異世界へ転生していたんだけど、私は人間ではなくてエルフの子供として、人生をやり直すみたいだ。