ヴァンパイア狩りで学費を稼いでいる。そう言うと大抵の人は驚く。何しろ危険な仕事だ。マッチョなタフガイをイメージするのだろう。確かに、そんな体格の男性同業者は多い。でも、皆が皆そうじゃない。虫も殺さぬ顔をした老婦人が恐るべき殺し屋の場合もあるし、月齢三か月程度の乳児が超能力で吸血鬼に幻覚を見せ月光浴のつもりで日光浴させて消し炭に変えるなんてのもある。私みたいに小柄な女子中学生なら、普通ではないにせよ騒ぎ立てるほどのものでもない。
 それでもやっぱりビックリされるし、色々と聞かれる。たとえば、こういうのだ。
「ヒーローと契約で特別な関係になったり、たくさんの吸血鬼に取り合いされちゃうなんてことも……あるの!?」
 こんな質問をするのはだいたい、同い年くらいの女の子だ。ヴァンパイアというものに、何かしらの憧れがあるのだろう。
 質問の答えは彼女たちを失望させる。ない、そんなことは全くないのだ。
 まあ、もしかしたら、そういうこともあるのかもしれない。けれど、私に関してはない。私にとってのヴァンパイアはヒーローじゃない、狩りの獲物だ。たくさんの吸血鬼に取り合いされちゃうなんてことの代わりに、一匹のヴァンパイアを仕留めるためにたくさんの吸血鬼ハンターが協力するのではなく互いの足を引っ張り合い、時に人間のハンター同士で殺し合うことがある。人間は吸血鬼以下の存在だと痛感させられる瞬間だ。世紀末はしばらく来ないというのに、もう世も末だとウンザリする。
 それはいい。私の狩りのやり方を教える。ヴァンパイアは血を求めて闇の中をさまよっているので、血の匂いでおびき寄せる。鉄とタンパク質の複合体から精製する人工血液気化ガスの入ったボンベの栓を開けて待つのだ。のこのこ現れたら捕まえる。警官みたいに手錠をかけるわけじゃない。私に見つめられた吸血鬼は、私の言いなりになる。大人しくしろと命じたら動かなくなるし、死ねと言われたら自らの心臓に杭を打ち込む。どういった理屈でそうなるのかは知らない。父が異世界から来た異形の神だったとか、母が滅亡した大宇宙の魔女の生き残りだとか、いろんな仮説を聞かされたけど二親ともこの世にいないので聞くことはできない。
 とっ捕まえた吸血鬼をどうするかというと、売る。美少年が大好物の芸能事務所社長やハンサム大好きなヌン活マダムがお得意様だ。中産階級の家庭にも売れる。ちょっと良いところで、箱入り娘がいるような家だ。親が買って、お嬢様にあてがうのである。意外に思えるかもしれないが、売上高はこちらの方が多い。車を買い与えるような感覚だろうか。
 どうして吸血鬼を娘に与えるのかというと、変な虫が付かないようにするためだ。凄いイケメンで人間離れした戦闘能力を持つ吸血鬼にかなう男なんか、まずいない。要するにデカい蚊がボディーガードになって、他の男が寄り付かないようにしてくれるのである。蚊に刺されたらどうするのって心配はご無用だ。吸血鬼に生殖能力はない。絶対に避妊してくれるボーイフレンドなら親は安心だ。娘と家族に危害を与えぬよう私が命じたら絶対服従するので、飼い主には噛みつかないことは保証済みだ。
 そんな従順な美男子が選り取り見取りなんて、羨ましい! とやっかむ子がいるけど、私は全然うれしくない。私にとって吸血鬼は売り物にすぎないのだ。好きも嫌いもない。とっ捕まえて売るだけだ。
 そんな現実主義者の私も年頃の女の子だ。いつか素敵な彼と巡り会いたい。繰り返すけど、それは吸血鬼じゃないよ。売り物に手を付けるのはプロじゃないから。