その2



「あのさ…、葬儀場で私がこの”密書”受け取る時、静岡の親分さんらしき人が”じゃあ、俺は行ってくるぞ”とかって、剣崎さんに告げてたよ。…そうか、ここに向かっていたんだね」

「…と言うことは、建田親分、俺達がここを訪れる用件は伊豆の親分さんから聞いてるんじゃないか?」

「そうだと思う。まあ、話が早いじゃん。さあ、行こうよ。そろそろこの行列の人達も中に入る時間みたいだし」

ケイコは建物の前で列を作っている、自分とさして年の変わらないであろう来場客たちを眺めながら、そう二人をせっついた

...


「そうっすね。シンゴ、急ごう…」

「ああ…」

3人が足早に入り口前まで近づくと…

列に並んでいる少女の声がケイコの耳に届いた

「ねえ、ちょっと…!なによ、あの人達、ずるこみじゃないの?」

そんな声に気づいたのか、列の整理に当たっていた若い男が3人の元に走ってきた

「…おい、あんたら。ダメだよ、ちゃんと順番を守ってくれなきゃさ~。さあ、列の後ろに並んで!」

「あのう…、僕たち…」

その男はどう見ても建田組の組員風で、タクロウとシンゴは瞬時に”格上”と察知したのか、すんなりとは言葉が出なかった

”わあ…、タクロウさん達、ビビってるわ…”

ケイコはそんな二人に代わって、”用件”を話そうとしたその時だった…

...


「…おい!そっちの人達は”奥”へのお客さんだ。お通ししな!」

そう入口の男に指示を出しながら建物内の通路から小走りしてきたのは、やはりその手の風体だと一目でわかる黒服に身を包んだ若い男だった

「…あっ、浅田さん!そうでしたか…、それは失礼しました。じゃあ、どうぞ…」

「ふう‥、なんか、話は通ってるみたいだな」

「ああ、よかった…」

タクロウとシンゴは、額の汗を拭いながら互いに顔を見合わせていた

そんな二人を無視するかのように、浅田と呼ばれた男はケイコの顔に目をやって切りだした

「…お嬢さん、親分は奥でお待ちです。参りましょう。…ああ、あんたらも着いて来な」

浅田はそう言って、3人を建物の奥へと先導して行った