果実たちの選択/その1
アキラ



ファミレスを出た後、オレは剣崎さんに自宅まで送ってもらった

今日はなぜかバイクだった

この人、250乗るんだ…

別に不思議じゃないけど、どうも黒塗り、運転手つきのイメージが強くって…

アパートの前に着くと、剣崎さんはすぐ帰った

オレなんかとは、生きてる世界が違うけど、剣崎さんも大変だな…

”仕事”とはいえ、オレ達”素人”に、こんなとこまで関与しなきゃならないなんて

あの相馬って人の周辺を、取り仕切っていたそうだから、この人しかできないことなんだろうが


...



うわあ…、部屋の前の玄関ポスト、たしかに郵便物の山だわ

チラシとかも交ってるけど、大半は督促とかも含めた請求書だ

ケイコちゃんがこれ見たら、そりゃ、心細くなっちゃうか…

あ、赤子さんからの手紙も届いてる

あの人にも会わせる顔ないな…

いずれ、こっちの身辺が落着いたら、あの人には全部言わなきゃな

ああ、とにかく帰ってきたんだ

オレはすぐシャワーを浴びてから、部屋で大の字になった

やっぱりいいや、シャバって感じだ…(苦笑)


...



そのまま少し眠ろうかなと思ったが、考え事が次から次へと巡ってきて、ダメだ

親には警察通じ、うまく伝わってると思うが、今日電話だけでもしておこう

迷惑かけて申し訳ないけど、今、実家に戻って説明できる状況じゃないし

とてもじゃないが、本当のこと全部言ったら、卒倒しちゃうよ

今日はこのままゆっくりして、明日から動こう

まず、”この”お金で払いものを済ませて

その足で”あそこ”に行く

どうしても、行って来なくちゃ…


...



翌日、10時過ぎにオレは部屋を出た

諸々の支払いやら、ガソリン入れたりを済ませ、オレはバイクを走らせた

そして…、まずここに来た

”マッド・ハウス”、いや、今は”それ”があった場所だ

すでに建物は解体されていて、更地だった

入口はロープで塞がれ、看板の連絡先は”建田興行”以外の文字があった

マッド・ハウスの入り口があった辺りに立ってると、いろんな思いが頭の中を廻った

ここにたどり着かなかったら、今の状況はなかった

でもそうであったら、今頃、自分どんなだったか…

仮に、この夏あの夜の海で、ケイコちゃんたちに出会ったとしても、どうだったのかなと…

おそらく、ケイコちゃんに対しても、オレの態度は違ってたと思う

それ以前に彼女だって、オレに目が留まらなかったんじゃないのかな

しかし、あの海の夜、オレ達は出会ってすぐ、”何か”を感じ合った

そう思えて仕方ない

その”何か”は、さりげなくて何気ない、良くわからない感覚なんけど…

であれば、ここにあった”小屋”って、オレにとっては重要な意味があったという事なんだろう


...



しばらくここに立ちすくんでいると、オレのバイクの後ろに一台の車が止まった

都内ナンバーの白い車はエンジンを止め、男が運転席から降りてきた

「アキラさん、久しぶりです…」

そう声をかけ、オレの正面にゆっくり歩いてきたのは、”ロード・ローラーズ”のメンバー、タクヤだった

タクヤ…

彼は、大阪行きの日、オレを監禁した連中に関与していたと思う

おそらく…