終われない夏の日/その13
追川
”横田”
この家の表札はその2文字だけだった
家族の名前までは入っていない
よし、とりあえずは彼女についての、下調べからだ
さて、このあとは、午後1時から”あの”喜多さんと、久々に駅前で会う約束になっている
まだ時間にゆとりがあるし、とりあえず、公衆電話から社に連絡を取るか
何か新しいネタが入っているかも知れないし
...
「あ、追川さん、今さっき飛び込んできたとこです。タイミングいいなあ、さすが鼻が利きますね」
「ネタ入ったんなら、さっさと言え」
「はい。例の薬物関連、もう一人拘留されてるみたいですよ」
「はー…、また女子校生か?」
「いや、男です。どうやらこっちは、未成年じゃなさそうですね」
「組内部のモンか?」
「いや、組内のモンじゃないですね」
「どんな接点なんだ?相和会とか建田とは」
「詳しいこと、まだなんともですが、地上げに使ってたライブハウスでバンドやってた若者のようです」
「そうか、夕方戻るから、また聞かせてくれ」
このネタは意外と突破口になるかもしれない…、
俺は瞬間的にそう直感した
...
その後、K駅前の売店で買ったパン二つと缶コーヒーで、軽く昼食とした
午後1時ちょっとすぎ、喜多さんが現れた
「やあ、喜多さん、しばらくです」
喜多さんは微笑を浮かべ、俺の顔をじっと見てから言った
「どうも…。相変わらず、”元気”そうだ」
この人の言っている意味は、よくわかる
俺たちは、駅地下のコーヒースタンドに入った
周りは中高生の女の子たちが目立つ
雑踏の音も交じり、騒がしいが、これくらいの方が俺はかえって落ち着く
喜多さんとは、特段の用事があって会った訳ではない
もっとも、相和会や建田組に関連した情報とか、雑談の中から聞き出せたらという狙いはあった
しかし、今、俺が追っているヤマに、この人を巻き込んでまでという気はない
いくら年季の入った市民運動家とはいえ、危険すぎるさ、この事案は…
まあ、少しでもヒントというか、何かきっかけにつながるような話があれば、御の字という程度だった
...
喜多さんとの話は、自然と汚職追及運動、そして建田組の地上げスキャンダルに行き着いた
「そういえば、あの地上げの最後の地権者だった、泉さん母娘、仙台でしたっけ?」
「ええ、故郷に近い場所でもあるせいか、お二人とも元気に暮らしてるみたいですよ」
「それはよかった。でも、あそこまで立ち退きを拒んでいたお嬢さん、典子さんでしたね、たしか。結構、最後はすんなりでしたね」
「僕もそこはちょっと、なんでかなって思ってたんで、先月電話で話した時、さりげなく彼女に聞いてみました」
「ほう…、それで典子さん、何て?」
「建田組じゃない人が、親身になって間に入って、いろいろ苦労してくれたんだそうです。なんか、その人には心開いちゃったらしくて(笑)。で、立ち退きの決心に至ったそうです」
「なるほど。まあ、ヤクザもんの色仕掛けとか強硬手段にも、たじろがなかった人だ。俺も、奴らの圧力に屈したとは思わなかったですしね。でも、その間には入った人っていうのは?」
「ああ、あの騒音巻き散らかして、大半の近隣住民を立ち退かせた、ライブハウス…、あそこでギター弾いてた青年らしいですよ」
「…」
俺は一瞬で、周りの雑踏のざわめきが、耳から消えた気がした
咄嗟に、社に電話した時の会話が頭に浮かんだ
これ、ひょっとすると、点と点が線で結ばれるぞ…
追川
”横田”
この家の表札はその2文字だけだった
家族の名前までは入っていない
よし、とりあえずは彼女についての、下調べからだ
さて、このあとは、午後1時から”あの”喜多さんと、久々に駅前で会う約束になっている
まだ時間にゆとりがあるし、とりあえず、公衆電話から社に連絡を取るか
何か新しいネタが入っているかも知れないし
...
「あ、追川さん、今さっき飛び込んできたとこです。タイミングいいなあ、さすが鼻が利きますね」
「ネタ入ったんなら、さっさと言え」
「はい。例の薬物関連、もう一人拘留されてるみたいですよ」
「はー…、また女子校生か?」
「いや、男です。どうやらこっちは、未成年じゃなさそうですね」
「組内部のモンか?」
「いや、組内のモンじゃないですね」
「どんな接点なんだ?相和会とか建田とは」
「詳しいこと、まだなんともですが、地上げに使ってたライブハウスでバンドやってた若者のようです」
「そうか、夕方戻るから、また聞かせてくれ」
このネタは意外と突破口になるかもしれない…、
俺は瞬間的にそう直感した
...
その後、K駅前の売店で買ったパン二つと缶コーヒーで、軽く昼食とした
午後1時ちょっとすぎ、喜多さんが現れた
「やあ、喜多さん、しばらくです」
喜多さんは微笑を浮かべ、俺の顔をじっと見てから言った
「どうも…。相変わらず、”元気”そうだ」
この人の言っている意味は、よくわかる
俺たちは、駅地下のコーヒースタンドに入った
周りは中高生の女の子たちが目立つ
雑踏の音も交じり、騒がしいが、これくらいの方が俺はかえって落ち着く
喜多さんとは、特段の用事があって会った訳ではない
もっとも、相和会や建田組に関連した情報とか、雑談の中から聞き出せたらという狙いはあった
しかし、今、俺が追っているヤマに、この人を巻き込んでまでという気はない
いくら年季の入った市民運動家とはいえ、危険すぎるさ、この事案は…
まあ、少しでもヒントというか、何かきっかけにつながるような話があれば、御の字という程度だった
...
喜多さんとの話は、自然と汚職追及運動、そして建田組の地上げスキャンダルに行き着いた
「そういえば、あの地上げの最後の地権者だった、泉さん母娘、仙台でしたっけ?」
「ええ、故郷に近い場所でもあるせいか、お二人とも元気に暮らしてるみたいですよ」
「それはよかった。でも、あそこまで立ち退きを拒んでいたお嬢さん、典子さんでしたね、たしか。結構、最後はすんなりでしたね」
「僕もそこはちょっと、なんでかなって思ってたんで、先月電話で話した時、さりげなく彼女に聞いてみました」
「ほう…、それで典子さん、何て?」
「建田組じゃない人が、親身になって間に入って、いろいろ苦労してくれたんだそうです。なんか、その人には心開いちゃったらしくて(笑)。で、立ち退きの決心に至ったそうです」
「なるほど。まあ、ヤクザもんの色仕掛けとか強硬手段にも、たじろがなかった人だ。俺も、奴らの圧力に屈したとは思わなかったですしね。でも、その間には入った人っていうのは?」
「ああ、あの騒音巻き散らかして、大半の近隣住民を立ち退かせた、ライブハウス…、あそこでギター弾いてた青年らしいですよ」
「…」
俺は一瞬で、周りの雑踏のざわめきが、耳から消えた気がした
咄嗟に、社に電話した時の会話が頭に浮かんだ
これ、ひょっとすると、点と点が線で結ばれるぞ…



