終われない夏の日/その9
剣崎
どこが冷夏だってくらい、9月に入ってからの暑さは応える
天気予報では、まだしばらくこの暑さは続くらしいし、参るな
まあ、俺たちにとっての”この夏”は、まだ終わらせる訳にはいかないが…
矢島さんが後継の座に着いた後、反体制サイドのはねっ帰りが心配された
案の定、9月に入ってすぐ、建田組のチンピラが”向かってきそうだ”、との憶測が流れた
当然、矢島さんに近い連中の気勢が上がっていた
この際、見せしめのため、たっぷり念入りに処置すべし
こういった強硬論が大半を占めた
しかし、今そんな目立った行動を起こしたら、”味方”を失う
そんな愚かな行為は絶対に阻止する!
ここは、これ以上ないくらいの目立たない手段を講じるべきと…
俺はそう強く主張し、矢島さんも同意してくれた
そして、未然に何事もなかったかのように、手早く収める
その方がかえって、抵抗勢力の無力感をあおることが出来る
結局、未遂を起こしたのは、建田組の”末端”だった
どうやら、最近建田さんの杯を受けたばかりの下っ端で、親分の商才にすっかり傾倒してたらしい
ある意味、こういった純粋なチンピラの方が怖い
おそらく、複数の周囲に背中を押され、無謀でピントのずれた”仇討”に走った
結果は幸運にも、”地味”な末路だった
...
この対処は功を奏したようだ
あっち側の連中には、あまりにあっけない”事前消火”はショックだったはずだ
加えて、こっちの情報網を誇示させる効果も得たと思う
その後の”矢”は、”飛ぶ”ことを拒んだいるようだしな
”味方”の権力側もとりあえずは、フムフム…、とほくそ笑んでるらしいわ
さあ、この後は、静岡の叔父貴のとこに赴くことになってる
今日は、東海中部地区の主だった先への、あいさつ回りに同行だ
...
静岡市郊外の明石田邸の応接間からは、純和風の庭が一望だ
今、池の改修作業が行われているようだ
「おう、待たせたな。まだ時間あんだろ。今、冷たいのを持ってこさせるからよ」
「お気遣いなく、叔父貴…。今日はよろしくお願いします」
俺は、ソファから立ち上がり、まずは挨拶した
「…ところで、池、模様替えですか?」
「ああ、ナマズ入れるんでな。全面改修だ」
「えっ?ナマズ…、ですか」
「東海地震がよう、いつドカンと来るかわかんねえんだ。気象庁や学者なんかアテにできたもんじゃねえし。ここはなあ、ナマズ様だよ」
全く…、相馬会長の長年の兄弟分だけあって、この人も少し、変わった感覚を持ち合わせている(苦笑)
ナマズなんかで地震を予知できるなんて、今どきの子供にも笑われるわ
...
「…ところでよう、早速の鉄砲玉だそうだが…、首尾は抜かりねえな?」
「大丈夫です。最善の静かな決着でした。後を引く気配も、今のところないです」
「うむ…。ならいい。それで、例のお子さん連中の後始末はどうなんだよ?」
「八分ってとこです。抑えは抜かりありません」
「あったら大変だろうが!あのなあ…、こんな田舎にもよ、”その辺”を書き暴く動きがあるって聞こえるんだが、お前…、届いてるんだろうな、手がよう」
「万事承知して、対処の手は回してます」
「じゃあ、もう圧かけたんだな?それで、引いたんだな?奴らは」
「いえ、今少し、泳がすつもりでいます」
「おい、おい!呑気すぎんだろうが、お前らしくない。ヤバいぞ、連中の”文字”、世間に晒されちゃあよ!」
「それやられたら、我々より、困る人たちは例の面々です。その人たちに危機感を持ってもらう段階まで、”タメ”を効かせる方針です。今の段階では、やっこさんら、他人事ですよ。まだ…」
「う~ん、まあ、お前の判断を信じるしかないが、ここはな。だがよう、死んだ兄貴の遠縁に仕立てた娘二人、口の具合、心配ないのか?」
「…細心で手当てしてるので、そこは任せてください」
「まあ、あの子たちはお前が最初から相手してるわけだし、選択肢ねえよ、剣崎以外な。しかしだ…、もしもの時は”ルール”に照らすんだろうな?出来るんだな?」
「ええ。やれます」
「もう一つ…、お前、いざとなったら、”片腕”も切り落とせるって覚悟もいいんだな?」
「無論です。そうは絶対なりませんけど…」
ここで、俺たちは話を切り上げ、出発した
...
今日は、たしか、ケイコが警察から家に帰れる日だったな
結局、薬物反応は出ずだったらしい
まあ、あいつの夏もまだ終わらないろうが…
剣崎
どこが冷夏だってくらい、9月に入ってからの暑さは応える
天気予報では、まだしばらくこの暑さは続くらしいし、参るな
まあ、俺たちにとっての”この夏”は、まだ終わらせる訳にはいかないが…
矢島さんが後継の座に着いた後、反体制サイドのはねっ帰りが心配された
案の定、9月に入ってすぐ、建田組のチンピラが”向かってきそうだ”、との憶測が流れた
当然、矢島さんに近い連中の気勢が上がっていた
この際、見せしめのため、たっぷり念入りに処置すべし
こういった強硬論が大半を占めた
しかし、今そんな目立った行動を起こしたら、”味方”を失う
そんな愚かな行為は絶対に阻止する!
ここは、これ以上ないくらいの目立たない手段を講じるべきと…
俺はそう強く主張し、矢島さんも同意してくれた
そして、未然に何事もなかったかのように、手早く収める
その方がかえって、抵抗勢力の無力感をあおることが出来る
結局、未遂を起こしたのは、建田組の”末端”だった
どうやら、最近建田さんの杯を受けたばかりの下っ端で、親分の商才にすっかり傾倒してたらしい
ある意味、こういった純粋なチンピラの方が怖い
おそらく、複数の周囲に背中を押され、無謀でピントのずれた”仇討”に走った
結果は幸運にも、”地味”な末路だった
...
この対処は功を奏したようだ
あっち側の連中には、あまりにあっけない”事前消火”はショックだったはずだ
加えて、こっちの情報網を誇示させる効果も得たと思う
その後の”矢”は、”飛ぶ”ことを拒んだいるようだしな
”味方”の権力側もとりあえずは、フムフム…、とほくそ笑んでるらしいわ
さあ、この後は、静岡の叔父貴のとこに赴くことになってる
今日は、東海中部地区の主だった先への、あいさつ回りに同行だ
...
静岡市郊外の明石田邸の応接間からは、純和風の庭が一望だ
今、池の改修作業が行われているようだ
「おう、待たせたな。まだ時間あんだろ。今、冷たいのを持ってこさせるからよ」
「お気遣いなく、叔父貴…。今日はよろしくお願いします」
俺は、ソファから立ち上がり、まずは挨拶した
「…ところで、池、模様替えですか?」
「ああ、ナマズ入れるんでな。全面改修だ」
「えっ?ナマズ…、ですか」
「東海地震がよう、いつドカンと来るかわかんねえんだ。気象庁や学者なんかアテにできたもんじゃねえし。ここはなあ、ナマズ様だよ」
全く…、相馬会長の長年の兄弟分だけあって、この人も少し、変わった感覚を持ち合わせている(苦笑)
ナマズなんかで地震を予知できるなんて、今どきの子供にも笑われるわ
...
「…ところでよう、早速の鉄砲玉だそうだが…、首尾は抜かりねえな?」
「大丈夫です。最善の静かな決着でした。後を引く気配も、今のところないです」
「うむ…。ならいい。それで、例のお子さん連中の後始末はどうなんだよ?」
「八分ってとこです。抑えは抜かりありません」
「あったら大変だろうが!あのなあ…、こんな田舎にもよ、”その辺”を書き暴く動きがあるって聞こえるんだが、お前…、届いてるんだろうな、手がよう」
「万事承知して、対処の手は回してます」
「じゃあ、もう圧かけたんだな?それで、引いたんだな?奴らは」
「いえ、今少し、泳がすつもりでいます」
「おい、おい!呑気すぎんだろうが、お前らしくない。ヤバいぞ、連中の”文字”、世間に晒されちゃあよ!」
「それやられたら、我々より、困る人たちは例の面々です。その人たちに危機感を持ってもらう段階まで、”タメ”を効かせる方針です。今の段階では、やっこさんら、他人事ですよ。まだ…」
「う~ん、まあ、お前の判断を信じるしかないが、ここはな。だがよう、死んだ兄貴の遠縁に仕立てた娘二人、口の具合、心配ないのか?」
「…細心で手当てしてるので、そこは任せてください」
「まあ、あの子たちはお前が最初から相手してるわけだし、選択肢ねえよ、剣崎以外な。しかしだ…、もしもの時は”ルール”に照らすんだろうな?出来るんだな?」
「ええ。やれます」
「もう一つ…、お前、いざとなったら、”片腕”も切り落とせるって覚悟もいいんだな?」
「無論です。そうは絶対なりませんけど…」
ここで、俺たちは話を切り上げ、出発した
...
今日は、たしか、ケイコが警察から家に帰れる日だったな
結局、薬物反応は出ずだったらしい
まあ、あいつの夏もまだ終わらないろうが…



