終われない夏の日/その1
ケイコとアキラ



この年の夏は数年ぶりに、全国的な冷夏だった

しかし、夏も終わりに近づくと、猛烈な暑さが続いていた


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9月に入り、2学期が始まって間もなく、ケイコは○○警察に出頭した

目的は愛する人と自分の”これから”のために、偽証をすること

高校2年生の少女にとって、あまりに過酷な選択とういほかはない

だが、こんなバカげた決断に至ったこの夏は、やはり約束された夏だったのだろう

彼女は心の奥底で、なにか漠然とした”必然性”を感じていた

ここに至り、ケイコはもう冷静だったが、警察の聴取でアキラの件に及ぶと、”それは違うんだよ!”と叫びたい気持ちでいっぱいで、それを抑えるのがとても辛かった

この場で真実を話せないことこそ、罪を犯してることになる…

しかし、この葛藤はずっと抱えてはいるが、もう決断したことだという割り切りの気持ちの方が勝っていた


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ケイコの母も、決して取り乱すようなことはなかった

高校に入ってからの”付き合い”は承知していたので、ある意味、心の準備にのようなものもあったのかも知れない

やはり、心の底では娘のことを信頼していたし、結果的に犯罪に関わったとしても、あくまでケイコは捲き込まれたんだという信念が強かった

南米に単身赴任している商社マンの夫にも、まだ連絡を保留していた

とにかく今は、警察の取り調べを見守ることだ

こう心に言い聞かせ、次女の美咲といつも通りの生活を続けていた



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ケイコの通う滝が丘高校でも、さしたる混乱はなく、学校側もまずは事態を静観ということになっていた

こういった事態が発生すると、噂が噂を呼び、PTAが動いてさらに輪をかけるといった騒ぎが起こるものだが、今回は至って静かなのものだった

クラスでも、興味本位であれこれ憶測が飛び交うこともなく、皆、彼女が普通に”帰る”ことをさりげなく待っている…、そんな雰囲気さえあった

さらにケイコの担任であり、所属する陸上部の顧問でもある教師の志田も、渦中の少女を穏やかに見守るという現象は、ケイコの日ごろの行いによる人徳がもたらしているのだと、確信していた

長年教育の場に携わり、こういった局面を何度か経験してきたベテランの男性教師が言った

「こういった”事件”が起きてて、こんな平静な光景は初めて見た…」