発熱の代償/その11
ケイコ


2時間を超えた剣崎さんとの”打合せ”は、ほとんど泣いてた

暑い中、ずっと外で待ってた運転手の能勢さんには、申し訳なかったと思う

さすがにぐったりって感じで、汗びっしょりだった

私は帰り際、頭を下げて、お詫びをした

この人にはずっと”付いてて”もらってたし


...



車を降りて自宅に戻ったあと、私はすぐに2階の部屋に入った

そして、机に向かい、これからのことに考えふけっていた

すると、部屋の外から「お姉ちゃん、開けるよ」という、美咲の声が聞こえた

妹の美咲は半分開けたドアから、顔だけ出して話しかけてきた

「お姉ちゃん、さっきお母さんが出かける前に言ってたんだどさ…、あさっての土曜日、外食でもしようかって。予定とかどう?」

「ああ、ちょっと都合悪いんだ。あさっては…。2人で行ってきて」

「そうなのか…。でも、そしたらまた日を改めてって言うんじゃないかな。私だけじゃ延期だな、きっと。お姉ちゃんと外食なんて、しばらくなかったからさあ…」

美咲…、私はしばらく家に戻ってこれないんだよ


...



明日、私は自分から警察へ出向くことにした

向こうからの迎えを待ってるなんて、耐えられないよ

ここまできたら、もうジタバタしてる段階じゃない

でも…、お母さん、ショックで倒れちゃったらどうしよう

お父さんは、赴任先の南米から飛んで帰ってくるのかな

ひょっとして会社、クビにならないだろうか

とにかくゴメン

お父さん、お母さん、それに美咲…


...



私は多くの人を裏切ったことになるんだ

学校は退学だろうし、この家にだっていられないかも知れない

友だちも驚くだろうな…

まさか、薬物で警察に呼ばれてるなんて

薫や絵美は、それでも親友でいてくれるだろうか…

多美やリミも、なんとなく私の様子を察してはいるみたいだったけど…

まさかここまでは予想してないよな、やっぱり

紅子さんや亜咲さんには…、ぶん殴られるわ

たとえ起訴まで至らなくても、私は多くのものを失う…、おそらく

だけど、アキラがいる

こんなに迷惑かけてるのに、私のこと、自分を犠牲にしてまで思ってくれてるなんて

申し訳ない気持ちの方が強いけど、そうだけど、嬉しい、嬉しいよ!


...



アパートで告白した時、私にくれたアキラの言葉…、本気だったんだ

そう思うと、こんな時でも安堵の気持ちになれる

だから、今度アキラに会ったら全部清算しなきゃ

いっぱい謝って、いっぱいお礼言って…

そして…、もう一つ言わなきゃいけないこと、それもだ

別に隠していたわけじゃない…

そのことは、最後に話そうと思ってたんだ

アキラが私の体をもらってくれる日、その時に告げようと決めていた

本当なら、大阪から戻った日、その時に終わってたはずだ

それは、麻衣との”間”の決着でもあったし


...



でも、こういう事態に至ってしまった限りは、状況が変わったさ

麻衣との”決着”、それだけって訳にはいかなくなった

アキラの記憶の中から、麻衣のヤツをかき消してやる

今後、私たち2人の間には、1ミリたりとも入らせやしない

アイツには、もう邪魔はさせないって!!

本当にどうなったっていいんだ、あんなヤツ

むしろ、ひどい目にあってもらいたいくらいだ

剣崎さん…、”それ”、本気だから