ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪

発熱の代償/その4
ケイコ



多美から電話のあった翌日、部活を終え、家路に着いた

バス停を降りると、小雨が降ってきた

自宅までは歩いて10分ちょっとだ

カバンから折りたたみの傘を取り出していると、歩道脇に車が止まった

”来たか…、ついに”

私は、心中でそうつぶやいた

その車の後部座席のウインドウが下がると、案の定だった

剣崎さんだ…、やっぱりこの人が来た

「ケイコ、時間いいか?後ろ、乗ってくれ」

私は車内に入り、剣崎さんの隣の後部シートに座った

入れ違いに運転席の能勢さんが、エンジンは切らずに車を降りた

「察してると思うが、いよいよお前にも動いてもらう」

サングラスをかけた剣崎さんは、正面を向いたまま、静かに話しはじめた


...



「今週の月曜、麻衣が飛んだよ。自分一人で派手に芝居打って、警察の聴取を受けた。その後、体調不良を訴えて病院にな…。そこで薬物反応でて、台本通り進んでる」

剣崎さんは、建田さんを失脚させたことも、大まかに説明してくれた

そして、例の相馬さんが私たちに与えた”錠剤”の”後始末”を、その流れに乗せたと

私は筋書きに沿って、警察の取り調べを受ける

その段階に来たということだ

「ケイコ、落ち着いて聞いてほしい…。お前の彼氏も今、警察だ」

「えっ、アキラが?それ、どういう事ですか?」

「大阪行きの日、彼を監禁したのは麻衣から聞いたと思う。そこでクスリ盛ったんだ、彼にな。その薬物反応が出て、今取り調べ中ってことだ」

私、頭が真っ白になった

「ちょっと、冗談でしょ?あなたたち、ホントにそんなことしたの?アキラに…」

剣崎さん、正面を向いたまま、「ああ」と言って頷いた

今度は、一気に頭に血が上った

剣崎さんのスーツを両手で掴み、声を荒げてこう言った

「何でだよ!アキラは関係ないだろ!何てことしたんだよ、チクショー!」

「落ち着け、ケイコ!」

剣崎さんは私の両手を振り払った手で、私の頭を勢いよくおっぺした

ドア方向によろけた私は、シートに手をついた

もうこの時点で涙があふれ、声を出して泣いてたよ

「何で、そんなひどいことするのよ!そんなこと…」


...


剣崎さんはサングラスを外し、私の方を向いてから、強い口調で言った

「いいか!香月はすべて受け入れたんだ。彼がマッドハウスで、建田組のチンピラから手に入れたクスリを、お前と麻衣にということにしたんだ。堅気の彼がワンクッション入れば、高校生のお前は限りなく、犠牲者として捉えられるんだよ。そうすれば、コトが済んだ後、お前のダメージは最小限に留まるさ。今後、お前と二人で生きてく上で、それが今の状況を解決するベターな選択だと腹をくくったんだよ、あいつも」

「一番、都合がいいのはあなた達でしょ!自分たちに得だからって、アキラを利用してるんじゃないか!」

私は泣きながら、剣崎さんを睨みつけ、怒鳴った

こいつら、許せないよ!麻衣もだ!