ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪

発熱の代償/その2
ケイコ



冷夏と言われた今年の夏も終わりに近づいて、ここのとこは残暑が厳しい

そんな中、2学期がスタートした

自分の勝手で、長期休部中だった私は今日、陸上部に戻れた

今、ハードルを飛ぶ一瞬に全身が痺れてる

なまった体のせいか、感激したせいか、どっちなのか

そんなのどうでもいいやって、ハードルを何度も何度も目の前にした

炎天下、さすがに気が付いたら、ぐったりで…

皆はまだ練習中だが、部室に退散して、いすを並べて横になってた

だれてるわ…、こんな自分、情けない…


...




部に復帰できた喜びは、体中で実感してる

でも、一方で不安が頭の上からまるで岩のように、圧し掛かってくる

ああ、アキラに会いたい、会いたいよう…

愚痴でも無駄話でも、何でもいいからアキラの顔見て、一時を共にしたい

みんな夢中で汗かいてるのに、私はこんなザマだ

いつまでも寝てちゃダメだ、起きなきゃ…


...



「おけい、大丈夫?ああ、無理しちゃダメだって、寝てなよー」

同級の主将、桑原里美子が、私の様子を見に入ってきた

「リミ、悪い。せっかく戻してくれたのに、バテバテで。今、グランドに戻るからさ…」

私がフラつきながら立ち上がると、リミは私の体をとっさに支えてくれた

「とにかく、もう少し休んでなよ。だいたい、ブランクあんのに飛ばしすぎだって。今日、特に暑いしさ…。でも、おけいらしいよな、手抜き一切なしで…。ハハハ…」

「面目ない。後輩にもみっともなくて会わせる顔ないよ…、ヘヘへ…」

私は椅子の背にもたれながら、頭をかいた

「何言ってんだよ。後輩はあなたが戻って、大喜びだよ。というか、おけいは部がどうのこうのっていうか、一年からしたら憧れの的だからね。嬉しくてしょうがないんだよ、一緒の場にいるだけで、実際さ…」

「からかうなよ、リミ。でも、みんな短い間で上達するもんだな…、私、何やっても、今じゃビリッケツだわ」

「それ以前だよ、おけいの存在はさ。南玉連合でトップやってて、いくつもの学校のもめごとや相談、すべて、解決してさ、すごいよ。人のために、いつも走り回って…。誰も真似できない、みんな、そう思ってるよ」

「リミ、やめてくれ。私、そんなご立派じゃないんだ、ホントは私…」

「…、南玉とか、詳しいこと知らないけど、まあ、私の耳にも入ってくるよ、やっぱり。いろいろなんだろ?あなた…。でも、信じて欲しいんだけど、あなたはみんなに、尊敬されてんだよ。私もだ、なにがあっても。だからさ、仮に短い間でも、一緒に汗かこうよ、なっ…」

ひょっとしたら、みんなは知ってるのか…?、私の事情もろもろを

おそらく、薄々ってとこだろうけど

「ありがとう。じゃあ、もう少し、横になってるわ」

「ああ、こっち終わったら、また来るから。ゆっくりしてて」

リミが出て行ったあとの部室は、さっきまで耳に届いていた外のざわめきが、急に遮断された気がした

そこには、自分一人、永遠に取り残されたような疎外感でいっぱいだった