忘れられた恋の物語

その時、今まで一切感情を見せなかった飛田さんの瞳に悲しみが見えた気がした。そして俺に言った。


「この1か月は逢田さんのための期間ではありません。」

「え?」

「どうかあなた自身のために時間を使ってください。もう心残りのないように。」


この人は感情は見えないけれど、俺のことを心配してくれているのだなとわかった。


「そうします。ありがとうございます。」

「では失礼致します。」


そう言って飛田さんはまた一瞬で目の前からいなくなった。

この時は、言われた通りにするつもりはなかった。柚茉のためにすべての時間を使いたかった。自分の感情なんて考えもせずに。

それなのになぜ飛田さんの言葉を、あの瞬間に思い出したのだろう。

柚茉の気持ちを知ったこのタイミングで。