「そういえば、白河の関を越えるときどんな句ができましたか?」

夕餉が終わり、お茶を飲んでまったりしていると等躬さんが芭蕉に質問してきた。芭蕉は少し考えて、少しがっかりした様子で口を開く。

「長旅に心身ともに疲れ、しかも景色にすっかり心を奪われ、白河での数々の歌人たちの想いに腸も千切れるほどで、はかばかしい句もできずに終わってしまいましたよ。それでも、何も残さずに関を越えるのはどうかとも思ったので、風流の初やおくの田植うたと詠みました・・・今日は、夜遅いですし、[歌仙]にしましょうか」

(風流の、それに[歌仙]って・・・これ連歌じゃん!ってことは・・・)

等躬さんがぐるっと周りを見渡す。芭蕉の方を見ると(紙を見せろ)という指示があったので袂から連歌懐紙を取り出してそっと等躬さんに見せる。

「おぉ、ありがとう曾良殿。なら、覆盆子を折て我まうけ草」

「曾良、次を」

「は、はい。み、水せきて昼寝の石やなおすらん」

わたしはそう言いながら懐紙に句を書く。今回はわたしがこの連歌の記録係だ。つまりね、わたしが一番疲れる役割ってこと・・・!(ちなみにこのことは芭蕉、ってか新に夕餉中に読唇術で教えられた。そのせいでめちゃくちゃ美味しそうだったご飯の味がしなっかったんだけど・・・!)

「いいですね。では、びくにかじかの声生かす也」

「一葉して月に益なき川柳」

(ちょ、早い早い!わたし、あんまり崩字うまく書けないんだよ!そんでもって次わたしの番!えっと・・・)

「雁に、やねふく村ぞ秋なる」

「賎の女が上総念仏に茶を汲て」

「世をたのしやとすずむ敷もの」

「有時は蝉にも・・・夢の入ぬらん」

 ここから結構長かったからすっ飛ばします!はい!

(これ、わたしはさっきスマホで確かめたからなんとかなるけど、この短い時間でなんで二人とも詠めるのよ!信じられない・・・!)

「薄あからむ六條が髪」

「切樒枝うるささに撰残し」

「太山つぐみの声ぞ時雨るる」

「さびしさや湯守も寒くなるままに」

「殺生石の下はしる水」

(うーん、さっき見た時も思ったけど、殺生石ってあの、途中で寄った石でしょ?あれの何がいいんだろ?)

「えーと、花遠き馬に遊行を導て」

(よし、あと一巡!)

「酒のまよひのさむる春風」

「六十の後こそ人の正月なれ」

「蚕養する屋に小袖かさなる・・・!」

(お、終わったぁ・・・!)

「曾良、よく頑張りましたね。初めてだったでしょう?」

「おや、曾良殿は連歌が初めてだったのか?」

「い、いえ、半歌仙はやったことはあります」

「いや、半歌仙しかやったことのない身で私達の速さについてこれるのはすごいです。そうですよね、等躬殿?」

「あぁ、さすが芭蕉殿の弟子だ。あぁ、そういえば芭蕉殿。この須賀川の宿場のすぐ傍に、多きな栗の木の下に庵をあるんだが、そこで隠遁生活をしている僧がいるそうで。興味があるならば明日にでも行ってみては?」

「ほぉ、それは興味深い。明日はその僧の元に行こうか。その僧の名前はなんと?」

「確か、可伸と言います。私に紹介されてきたと言えば快く通してくれると思いますよ」

「感謝します。曾良、明日の予定ができたことですし、寝ましょうか。等躬殿、失礼します」

「失礼します、等躬様」

「あぁ、明日の朝餉はそちらに持って行かせるよ」

「では、明け五つになったら届けてくださいますか?」

「かしこまりました。では」

(明け五つでいつぐらい・・・?)

とりあえず芭蕉についていって自分たちの部屋に戻った。