鳥居をくぐり抜けたところにあった御水舎で身を清めたら神輿舎、眠り猫を見て奥殿でやっとお参り。

パンパン!

(鈴さんとゆきちゃんにいい未来が訪れますように・・・)

もう一回一礼してから元来た道を新と歩く。

「芭蕉様は何をお祈りしたのですか?」

「この旅が無事に終わりますように、と」

(任務成功を祈願したってことかな?)

芭蕉の時の新は考えていることがうまく読めない。新の時はめちゃくちゃわかりやすいんだけどなぁ・・・

「芭蕉様、今日はどこに泊まるおつもりですか?」

「今日は、弟子のところに泊まる予定です。ついてきてくださいね」

「はい、芭蕉様」

とりあえずできるだけ目立たないように移動。まぁ、芭蕉がいる時点でめちゃくちゃめだってるけどね。

「ここです」

三十分ぐらい歩いたところにあった家が今日の宿泊場所なんだって。

「頼もう」

「はーい」

わたしが言うと奥から声がして、パタパタと走る音がしたと思ったらガラッと目の前の板戸が開く。

「芭蕉様ですか?」

「はい。こちらが」

「そうですか。どうぞ」

玄関で草鞋を脱いで奥の部屋に向かう。見た目に反して意外に広いなぁ・・・

「ここでございます」

「あぁ、ありがと、優」

え?今の素の声だよね?いいの?

「千夜、紹介しよう。俺の仲間の沙優だ」

「え?仲間って・・・」

「俺たちの手紙を届けてくれる、甲賀の者なんだ」

甲賀の者といえば、今の滋賀県の南の方で修行した忍者の人たちのこと。戦闘技術が秀でていた伊賀者に比べて甲賀の者の得意分野は情報収集。戦国時代に徳川家康に仕えていた伊賀者と敵対する豊臣秀吉に仕えていた。本来なら敵同士のはずなんだけど・・・

「甲賀⁉︎新って伊賀者じゃないの⁉︎」

「あぁ、確かに新は伊賀の者だけど、あたしも新と同じように徳川家に忠誠を誓っている家でね。それっぞれ協力してやってんだよ」

「なるほど・・・!」

そんなこと初めて聞いたんだけど!まじか!

「あ、初めまして。千夜です」

「初めまして。あたしは沙優。よろしくね」
それぞれの自己紹介を終えたらサクッと変装を解く。もうだいぶん慣れたけど、お化粧が崩れたらアウトだから結構気を使う。こんなふうに人前でも外せるのが嬉しいね。

「おーこれは別嬪さんだねぇ。今いくつ?」

「十五ですけど?」

「うわぁ、若いねぇ。あたしもそのくらいの時は結構別嬪だって言われてたんだよ」

「え?沙優さんってわたしよりも年上だったりします?あっても五、六歳年上ぐらいだと」

肌にも艶とハリがあるし、シワも全然ないし。そんな「若いねぇ」って言うぐらい年上じゃないよね?

「はははは!あたしは今二十九だよ。千夜ちゃんよりも十四歳上」

「・・・マジ?」

信じられない。

「あの、沙優も千夜も。とりあえず飯にしねぇか?俺、腹減ったんだ」

さっきまで空気になってた新が申し訳なさそうに言う。確かにわたしもお腹、空いたかも。

「分かったよ。新と千夜はここで休んでな」

沙優さんが部屋から出ていくのを慌てて彼女の着物の裾を掴んで阻止する。

「すみません!わたしのご飯の炊き方、正しいか確かめてください!」

「はい?」

「ちょ、」

沙優の呆気にとられた声とやめろ、と言う感じの新の声が綺麗にハモった。