――木苺のジャム。家の裏に生えている木苺で、おばあさまが毎年この時期に作る、彼のお気に入りのジャム。少し酸味があって、それでもとっても甘くて、わたしも大好きだ。
わたしが横目でちらりと彼の様子をうかがえば、彼はショックを受けた顔をしていた。
――もう、本当に素直なんだから!
わたしは吹き出しそうになるのをこらえ、木の根の陰に隠しておいたカゴに手を伸ばす。
「もう、嘘よ。ウ・ソ! ちゃんとあげるわよ。ほら」
わたしはカゴから真っ赤なジャムの詰められたビンを取り出して、彼の前に差し出した。すると彼はホッとした顔でビンを手に取り、屈託のない笑顔を見せる。
「ありがとう、ユリア! 君のおばあさまのジャム、本当に好きなんだ! 何かお礼しないとな。ユリアは何がいいと思う?」
「――っ」
太陽みたいな彼の笑顔。
栗色の髪も、ヒスイ色の瞳も、額に浮かぶ玉のような汗すらも――夏の強い日差しにも負けないくらいキラキラと輝いて、眩しくて……胸がきゅうっと締め付けられる。
わたしはこの人のことが、たまらなく……好き。
「ユリア、どうかした? 顔が赤いよ?」
「――っ!」
気付くと、彼の顔が目の前に迫っていた。
その見つめるような視線に、わたしは無駄にドキドキしてしまう。
「な、ななな、何でもないわよっ! そ……それ、より……」
わかっている。きっとこの恋は一方通行。というより、多分まだこの人は、恋や愛には興味がない。だからわたしはこの想いを、まだ伝えていない。
けれど、せめて――。
「それ。その、ジャム……」
「……?」
「わ――わたしが、作ったのっ!」
そう。そのジャムは、わたしが初めて作ったジャム。
あなたのために作った……初めての、ジャム。
「え……ユリアが?」
刹那、彼の両目がゆっくりと見開かれた。それはとても驚いた様子で。
そんな彼の表情に、わたしの心臓が不安で飛び跳ねる。
――どうしよう、やっぱり嫌だっただろうか。やっぱりおばあさまのジャムの方が良かっただろうか。美味しいかどうかもわからない、わたしのジャムよりも……。
どうしよう、どうしよう。カゴの中にはおばあさまのジャムも入っている。今からでも取り替えて……。
けれど、そんなわたしの不安な心など一瞬で消し去ってしまうように――。
「ありがとう、ユリア! 僕、すごく嬉しいよ!」
弾けるような笑顔を、わたしに向けた。