風が……(かお)る。

 ここは、どこ……?

「――! ――……ア!」

 誰かしら。わたしの名前を呼んでいるのは……。

「……リア!」

 あぁ、頬を撫でる風が心地いい。……木漏れ日が、眩しい。

 聞こえるのは……懐かしい声。

 そう――そうだわ。ここは……。

「ユリア――ユリアってば! またそんなところに登って!」
「――っ」

 聞き慣れたその声に、わたしはハッと飛び起きた。
 目を開ければ、そこに広がるのは青々とした草原と、よく見慣れた町。

「……あ」

 それを確認すると同時に、ぐらっと傾くわたしの体。

「っとと」

 危ない危ない。いつの間に眠ってしまったのだろう。
 わたしはバランスを取り直し、声のする方に視線を下ろす。

「ねぇ、ユリアってば!」

 そこには十歳ほどのまだあどけない少年がいた。
 困ったような、怒ったような顔をして、木の下からわたしの名前を叫んでいる。

 ああ、そうだわ。わたし、待ち合わせをしていたんだった!

 そのことを思い出し、わたしは頬を膨らませた。

「ちょっと! あなたが大声を出すから落ちそうになったじゃない!」

 そう言い放ち、さっと木の下へ飛び降りる。
 すると彼は急いで駆け寄ってきた――が、その顔は不満げだ。

「もう……何だよ、木の上なんかで寝てるのが悪いんだろ。女の子があんな高い所に登って、本当に落ちて怪我でもしたらどうするんだよ」
「何よ、あなたが待たせるのが悪いんじゃない」
「それは……そうだけど。仕方ないだろ、店の手伝い終わらなかったんだから」
「またそんなこと言って! じゃ、いいわよ。せっかく木苺(きいちご)のジャム持ってきたのに、あげないから」

 わたしはつんと顔を背ける。
 本当はあげないつもりなんてないけれど、ちょっとだけ意地悪を言ってみたくなって。