「よくもまぁ抜け抜けと――。彼女はウィリアムの婚約者だぞ。お前などが手に入れられようはずもない」
「そのようなこと百も承知ですよ。けれど、僕には彼女を手に入れなければならない理由がある。あなただって気付いたのでしょう? 彼女が僕らと同じだということに」
「だが、彼女は俺の力に気付かなかった」
「でも、読めなかったでしょう?」
「…………」
「僕らは皆同じ。でも違うんですよ。……彼女の苦しみを理解してあげられるのは僕だけです。彼女は誰にも渡しませんよ。あなたにも――たとえウィリアム様にだって」

 そう言ったルイスの表情は、瞳は、アメリアを真摯に想うものに感じられて、アーサーは思わず口を噤んだ。

「――とまぁそういう訳ですから、これ以上の手出しは無用です。まして先ほどのように忠告などとは……。僕の目的はあくまでアメリア様ただおひとり。つまり、あなたの大切なウィリアム様を傷付けることはありません。彼は僕にとっても大切な方ですから」
「……っ」

 アーサーを見据えるルイスの闇色の瞳――凍てつくように冷たい声音。

 それが、アーサーの心を黒く(むしば)んでいく。

「僕はどんな手を使ってでもあの方を手に入れてみせます。ですからあなたはもう今後、余計なことはしないでください。そうでないと、僕は何をするかわかりませんよ。アーサー王太子殿下」

 ルイスはそこまで言うと、満足げに笑みを浮かべる。

「では、私はアメリア様を追いかけなければなりませんので――これにて失礼致します」

 そう言い残すと、未だ不服そうなアーサーを置き去りに、その場を後にした。