アーサーはルイスの答えに内心安堵しつつ、わずかに語気を荒げた。
 だがルイスは眉一つ動かさない。それどころか、彼は笑みを一層深くする。

「だったら何だと言うのです。おわかりですよね? アメリア様はウィリアム様の婚約者。私にはアメリア様を守る義務があります。たとえ王子であるあなたを敵に回すことになろうとも――」
「はっ、何を言う。俺は知っているぞ。アメリア嬢をウィリアムの婚約者に仕立て上げたのはお前だと。アメリア嬢を欲しているのはウィリアムではなく――ルイス、お前だということを」

 刹那、再び赤く染まるアーサーの右目。
 彼の思いの強さに比例するように、輝き――(うごめ)く赤い光。

 だがルイスは怯むことなく、アーサーの視線をそのまま受け止める。

「ははっ、物騒ですね。――ですが」

 その唇を、さも愉快そうに歪ませながら。

「無駄、ですよ。()相手に――わかっているでしょう? でも正解です。さすが、あなたは根っからの天才だ。人の心を読む力に長けていらっしゃる。その力が無くても、あなたは素晴らしい方ですよ」
「それが、お前の本性か」

 アーサーの視線の先、ルイスの表情には――薄気味悪い薄い笑み。

「ええ、本当はあのときご挨拶するつもりでいたのですが。あなたがあまりに怖い顔で僕を睨むものだから怖気付いてしまって――気付いたら十年も経ってしまっておりました」

 ルイスは顔に笑みを張り付けたまま、続ける。

「ですが、これだけはわかっていただきたい。僕は今も昔も、あなたと相対するつもりは少しもないということです。――僕はただ、アメリア様を手に入れたいだけ」