二人の間に嫌な沈黙が流れる。
 お互いに相手の腹を探り合う――そんな沈黙。けれど――。

「まぁいいさ。君に出会えただけで俺は満足だ」

 アーサーはひとまず引くことにしたらしい。
 彼は再び王子の仮面を被ると、何かを思い出したように人指し指をピンと立たせた。

「そうだ。君の目的がルイスではないのなら、一つ忠告をしてやろう」
「……何ですの」
「彼は危険だ。俺と、君と、ルイス。俺たちは同じ……彼も何かを持っている。彼はずっと君のことを探していた、気を付けた方がいい」
「ご忠告痛み入りますわ。けれど、それはあなたも同じなのではありませんこと?」

 アメリアはアーサーから視線を離さない。決して彼の間合いに入らぬようにと、警戒心を募らせる。

「そうだな。けれど……俺はウィリアムのことを気に入っている。だから彼の側にルイスのような下賎(げせん)な人間がいることが許せない。つまり、君次第ということだ」
「心配せずとも、わたくしは永遠にウィリアム様の味方ですわ」
「それは頼もしいな」
「勘違いなさらないで。わたくしはあなたのことも――もちろんルイスも、これっぽっちも信用するつもりはありませんのよ」
「それは賢明な判断だな」
「…………」

 アメリアはアーサーの飄々(ひょうひょう)とした態度に不信感を募らせつつも、一つだけ――と続けた。

「お尋ねしてもよろしいかしら?」
「答えられることならば」
「ウィリアム様はこのことをご存じ?」
「どうだかな。少なくとも俺は自分の力を他人に話したことはない。当然、ウィリアムにもだ。だが、一つ確実なのは――」

 アーサーはニヤリと唇を歪ませる。

「ウィリアムは、何かを隠している 」
「…………」
「それが何なのかまでは、この俺にもわからないが」
「……そう」

 何かを隠している――その言葉に、アメリアの心に湧き上がる一抹の期待と不安。

 その感情をアーサーには悟られないよう、彼女はくるりと(きびす)を返す。

「わたくし先に参りますわ。少し独りになりたいので、殿下はゆっくりとおいでくださいませ」

 アメリアはアーサーに背を向けたままそう告げると、淑女らしからぬ足取りでその場を後にした。