「ええ。ウィリアムらしくない。私が知る限り、彼が誰かに思いを寄せるのは……アメリア嬢、あなたが初めてだ 」
「そう……なの、ですか?」
「ええ」

 アメリアは赤く染めた頬を、両手で恥ずかしそうに覆った。

 アーサーはそんなアメリアの姿をじっと見つめる。
 アメリアの美しい横顔を――その深い湖のような瞳を。彼女の心を覗き込むように。

 ――そして、その刹那。

 アーサーの右目が、突如として(くれない)に染まった。
 (あか)よりも(あか)い――ルビーのように眩くも、血のように禍々(まがまが)しい――そんな色に。

 けれどそれはほんの一瞬のことで、アメリアは気付かない。

「……やはりそうか」

 アーサーは足を止める。

 それと同時に変質する、彼の纏うそのオーラ。
 彼の心の内側から湧き上がる、強い興奮と高揚感。それが今まで長きにわたり被り続けてきた、彼自身の仮面を打ち砕く。

「殿下……?」

 アメリアは足を止めたアーサーを振り返り、小さく首を傾げた。

 アーサーはそんなアメリアに微笑みかけ――そして。
 彼女の細い手首をぐっと掴んで自分の方へ引き寄せ、そのまま反対の手をアメリアの腰に回して自身の身体をぴったりと密着させる。

 その(かん)、わずか一瞬。

 アメリアは声も上げられず――ただ大きく目を見開いた。

 ――否、もしも相手が王子ではなかったなら、頬を引っ叩くくらいはしていたかもしれない。けれど相手は王子である。怪我をさせるわけにはいかない――とはいえ、決して嬉しい状況でないのもまた事実。
 であるから彼女は、その顔を不快感いっぱいに歪めてみせた。

「何の、つもりですの」

 アメリアはアーサーを睨みつける。

「こんなこと、たとえあなたがこの国の王子でも……許されることではなくってよ」
「勘違いするな。女には困っていない」
「なら――」

 言いかけたアメリアを、アーサーは更に抱き寄せる。
 そして――彼女の耳元で――囁いた。