ともかくウィリアムは困っていた。いつものカーラなら、ウィリアムから子供に見られまいと背伸びをして澄まし顔、なるべく大人しく、素直で従順な女性である振りをするはず。

 けれど今日の彼女はそうではない。彼女は自分の感情を素直に表に出し、ウィリアムにもアメリアにも、心のままに接している。
 もちろんウィリアムは、それこそが本来の彼女であることを理解していた。子供の頃からの付き合いであるのだ、気が付かないはずがない。

 だからこそ、ウィリアムは今までの自分のカーラへの態度を後悔し始めていた。
 彼は過信していたのだ。カーラが自分に対し、その想いをぶつけてくることはしばらくの間はないだろうと。
 素直で、控えめで、穏やかに――できるだけウィリアムに釣り合うようにと努力するカーラが、彼女の考えるウィリアムに釣り合う女性になるまでは、自ら想いを告げてくることはないはずだと。
 だから彼は今までずっと、カーラをあえて遠ざけず彼女の好きにさせていたのである。

 それが、どうしてこうなったのか。

「カーラ、さっきのアメリア嬢への態度はいったいどういうことだ。あれではあまりに失礼だ」

 ウィリアムはカーラを戒める。
 どんな事情があろうと、あのような態度を取ってもよい理由にはならない。それぐらいわかるだろうと、ウィリアムは言いたいのだ。
 けれどカーラは、頷くどころか反論する。

「失礼? それを言うならあの方の方が失礼だわ。わたし、兄さまに聞いて知ってるのよ」

 カーラの瞳は真剣そのものだった。
 けれどウィリアムには、カーラの言いたいことが何なのか、見当もつかなかった。

「ウィリアム様は知ってる? あの方、エド兄さまとブライアン兄さまと一緒に、街のパブに出入りなさっていたのですって」
「パブ?」