確信があるわけではなかったが、二人がこの場にいることから状況を推測したアメリアは責めるように二人を見据える。すると二人は悪びれもせず、笑い声を上げた。

「やっぱりバレたか」
「話すつもりはなかったんだけど、アーサーに問い詰められてさ。仕方なかったんだ」
「殿下に……? まさか娯楽好きな殿下に知られるなんて、最悪よ。それにあの馬車は何なの? 四頭立てだなんて」

 アメリアが馬車に目を向けると、相も変わらず緊張感なく答える二人。

「ああ、あれなー」
「アーサーと出掛けるって父さんに言ったら、あれ使えって。目立つし嫌だって言ったんだけど」

 確かに王子を乗せるとなれば普通の馬車というわけにはいかないかもしれない。けれどあんなに目立つ馬車で移動するなど、逆に危険というものだろう。
 そもそも今日のアーサーには護衛の一人もついていない。いくら平和な国といえど、王子に護衛をつけないとはいったいどういう了見なのか。

「平和すぎるのも考えものよね……」

 もし万一アーサーに何かあれば、誰がどう責任を取ることになるのだろうか。――アメリアの憂鬱に拍車がかかる。
 けれど空気を読まないエドワードとブライアンは、突如腹を抱えて笑い始めた。

「にしてもさっきの君の淑女ぶりは傑作(けっさく)だったな! ごきげんようなんて言葉が君の口から出てくるとは! 笑いをこらえるのに苦労したよ!」
「氷の女王様はどこへやら! まさか、ウィリアムは君の本性知らないわけ?」
「あなたたち、性格悪くなったわね。残念だけどウィリアムも知ってるわ」
「なんだ。じゃあここにいる全員、君の本性を知ってることになる。淑女の振りなんて止めればいい」
「そうだ。君には窮屈だろ? それに俺たちは、さっきの君より今の君の方が好きだ」

 今度は真面目な顔をしてそんなことを言い出す二人。
 けれどアメリアは否定する。

「あら、駄目よ。わたし、この自分も結構気に入ってるの」
「……?」
「それってどういう……」

 二人が言いかける。
 けれどアメリアはその言葉を待つことなく、二人に背を向け歩き出した。