――それからは早かった。

 ジョンの図々しくも気さくな態度のおかげと言うべきか、あるいはもともとの性格か、エドワードとブライアンはあっという間に酒場になじんだ。初対面――しかも階級の異なるジョンやその仲間らと、時間も忘れて語り合った。
 見栄も忖度もないありのままの自分の姿をさらけ出せるその場所は、二人にとってとても気楽な、居心地の良い場所だった。

 そして同時に、二人は強い衝撃を覚えた。
 仕事、政治、家族、趣味――庶民の彼らが何気なしに語るその内容は、当然貴族の認識とは全てが異なっていた。
 二人はそのことを、今まで一度だって気に留めたことがなかった。良いも悪いもない、そういうものだと理解していたが、彼らの話を聞いて初めて疑問を持った。

 ――特権階級と労働階級――決して相入れないと思っていた、何か別の生き物のように感じていた彼らが、こうやって言葉を交わしてみれば自分たちと何ら変わりない存在だと気付かされる。

 ――それは二人の常識が覆った瞬間だった。

 今までの退屈な日常がいかに恵まれていたのかを思い知った。自らの無知を恥ずかしく思った。
 彼らの生活をもっと知りたいと思った。もっと言葉を交わしたいと願った。

 けれど、別れの時は訪れる。

「また来いよな!」
「俺たちこの時間にはいつもここにいるからな!」
「ファースト・フットマン殿! 今度可愛い子紹介しろよ~!」

 出会ったばかりの自分たちを、笑って送り出してくれる人がいる。――二人にとって、それは特別な経験だった。