彼女は二人の問いをひたすらに無視し、数枚の銅貨を少年に手渡す。

「これで足りるわね。あ、帽子も忘れちゃダメよ?」

 少年は銅貨を数え終えると、満足げに顔を上げた。

「任せてください! すぐ用意しますね!」

 彼はそう言って、駆け足で家から出ていく。
 その足音が聞こえなくなってようやく、アメリアは二人の方を振り向いた。

「出掛けるわよ、二人とも」

 アメリアはニコリと微笑む。――が、当然二人は困惑顔だ。

「出掛けるって、いったいどこに……。俺たち今も外出の真っ最中だと思うんだけど……」
「それに今の子供……君とどういう関係だ? そもそも親は? こんな時間に子供が家に一人ってあり得ないだろ!」
「それにミリアって何だよ。なんで偽名?」

 二人は口々に問いかける。
 するとアメリアは一層笑みを深くした。

「まだまだ夜は長いのよ。この姿じゃ目立つでしょ」
「…………」

 二人は再び顔を見合わせる。

「まったく。君はいったいどんな教育を受けてきたんだ」
「君の家族はこのこと知ってる……わけないか。普通なら許さない」
「あら。ここに付いてきたという時点で、あなた方もわたくしと同じですわ。それに心配せずとも散会(ラスト・ワルツ)までには戻ります。それとも、怖気付(おじけづ)きまして?」

 アメリアの笑みに、二人は観念したように息を吐いた。
 彼らも男だ。そこまで言われて引くわけにはいかない。

「いや、ここまで来たら最後まで付き合うさ」
「ああ、なんなら夜更けまででも――女王様」