「馬鹿馬鹿しい。私は下がらせていただきますよ、アーサー王太子殿下」

 そう捨て台詞を吐くと、そのまま部屋を出ていってしまった。
 アーサーはそんなクリスの背中を黙って見送り、再びカーラに問いかける。

「それで? ウィリアムが婚約したというのは本当なんだな?」
「は、はい。昨夜の夜会で、サウスウェル伯爵家のアメリア様と……」
「ふむ。あの悪名高きアメリア嬢か。これはなかなか面白いことになってるな」

 アーサーがニヤリと口角を上げると、カーラは顔を曇らせた。

「悪名高き……とは? わたしは昨夜、初めてアメリア様にお目にかかりましたが、とてもお優しそうな方でしたわ」
「ほう。優しそう? 噂とは正反対だな。聞くところによれば、冷酷非道、傍若無人。あだ名は確か、氷の女王(・・・・)だったはずだが」
「――っ、それは事実ですの?」

 カーラの顔が蒼くなる。

「さあ、私はアメリア嬢にお会いしたことがないのでな。噂の真偽はわからない。――だがそこの二人なら、会ったことあるんじゃないのか?」

 アーサーの視線がエドワードとブライアンを捉える。
 すると二人は毎度のことながらお互いの顔を見合わせた。

「俺たちだって何度も見たわけじゃない。彼女は社交場嫌いで有名で、年に数回しか顔を出さないから」
「そうだ。俺たちが彼女を見かけたのだって、せいぜい二、三回……」
「――で、その二、三回はどうだったんだ?」

 アーサーは是も非も言わさぬ様子。
 そんなアーサーに、心底嫌そうに顔をしかめる二人。

「……えー、それ、どうしても話さなきゃ駄目?」
「正直、彼女の話はしたくないっていうか……」
「駄目だ。これは命令だ」
「……はぁ、そーかよ」

 さすがの二人も王子にここまで問われては答えないわけにはいかない。
 彼らは観念したように口を開く。

「――そう、確かあれは三年前……」
「俺たちはアメリア嬢を初めて夜会で見かけて、声をかけたんだ」