――さっそく接触できるとは幸先(さいさき)が良い。
 アメリアはそう考えながら、ゆっくりと後ろを振り返る。

「ごきげんよう、ウィリアム様」
「あ……ああ」

 振り向いた先、ウィリアムの顔に浮かんでいるのは明らかな戸惑いだった。
 なぜならウィリアムにとって、アメリアの登場は予想外だったからだ。

 サウスウェル伯爵夫妻がこの夜会に招かれていることは当然知っていた。だが、あんなことがあった後でアメリア本人が来るとは考えていなかった。これがウィリアムの義理の伯父に当たるスペンサー侯爵が主催する夜会である以上、ルイスの言う「アメリアが嫌っている」はずの自分が出席していることは明白だからだ。

「……驚きました。まさかあなたが出席されるとは思わず……」
「あら、来てはいけませんでした?」
「いや、そういう意味では――」

 困惑するウィリアムに、アメリアはにこりと微笑みかける。

「どうしてもウィリアム様にお会いしたくて、連れてきてもらいましたの」
「それはまた……どうして」
「先日のことを謝りたくて」
「……謝る? 何を……」
「決まっていますわ。メイドにお茶をかけたことに、お怒りでしたでしょう?」
「……それは」

 アメリアは、ウィリアムの心の動揺を手に取るように感じていた。

 近くにルイスらしき男の姿はない。これならきっと上手くいく。
 そう確信したアメリアは、さっそく自分の計画を行動に移そうと考えた。――けれどその計画は、ウィリアムの背後から聞こえてきた少女の声によって中断された。

「ウィリアム様、こちらの方は?」

 ――それはまだ幼さの残る、愛らしい容姿の少女だった。
 少女はウィリアムの背中からひょっこりと顔を覗かせて、アメリアを興味津々に見つめた。