月明かりしかない暗がりの中、彼はベッドの端に腰を下ろし独りため息をつく。

 ――本当に、あなたはどうしようもないほどのお人よしだ。

 くずかごに捨てたシャツを見つめ、彼はクッと口角を上げた。あまりに事が上手く運びすぎて、ウィリアムが何の疑いも無く自分の言葉を信じていることが可笑しすぎて、乾いた笑いが零れそうになる。

 だがそうなるように仕向けたのは紛れもないこの自分。十五年という月日をウィリアムに捧げ、自分を決して疑わないよう躾けてきたのは、ルイス自身に他ならない。

「ああ……、ようやくだ」

 ルイスはくぐもった笑い声を上げ、視線を窓の向こうの月へと向ける。

 来たるべきその日は目前だ。その日を迎えるためだけに、彼はウィリアムを騙し続けてきたのだ。

 彼の脳裏に、ウィリアムと出会った日のことが蘇る。まるで昨日のことのように鮮明に。
 それと同時よぎるのは、アメリアの酷く動揺した顔。ウィリアムを愛せ――と告げたときの、彼女の驚きに満ちた顔……。そして、アーサーがアメリアを辱めたと告げた際の、ウィリアムの失望に染まったあの表情。

 十年前からアメリアを慕っていたというのも、自分と生きてほしいというのも全てが偽りの言葉に過ぎない。
 けれど目的を達するためには必要なことで、どうしたって避けては通れない道だった。

 ――全てが嘘であったと知ったとき、あなた方は僕を蔑むのでしょうね。

 だがたとえ誰に恨まれようと、ルイスにとっては取るに足りないことだ。全ては千年前から始まった……この悲願を叶えるためならば、手段など選んでいられない。