「さっさと謝ってしまえばいいのではないですか?」

 ヴァイオレットは微笑む。

 けれどアーサーは答えずに、ヴァイオレットの柔らかい身体に顔を沈めた。
 そしてしばらく沈黙した後、今度こそはっきりとした口調で告げる。

「……俺は何も悪くない。謝る必要があるのは俺ではなく……あいつの方だ」

 それは多分本心で……だからこそ彼は苦悩しているのだと、ヴァイオレットは理解した。
 ならば――と、彼女は続ける。

「よくお話しするしかないですわね。何も後ろめたいことがないのなら、相手の目を見てまっすぐに訴えれば良いのです。きっと、心は伝わりますわ」

 ヴァイオレットの声は、まるで母が子をあやすように柔らかで、愛に満ち溢れていた。
 その声音に、アーサーはヴァイオレットを仰ぎ見る。

 自分を軽蔑したように見つめるウィリアムの姿を思い出し――同時によぎる、ルイスと、そしてアメリアの顔。
 二人に騙され――自分を蔑む、ウィリアムの残酷な顔――。

「あぁ……ヴァイオレット。俺は……」

 アーサーは右手を宙に掲げ、ヴァイオレットの長い髪を指に絡めた。それは薄い月明かりに照らされ星のように輝いている。美しく、妖しく、そして艶やかに――。

 アーサーはゆっくりと身体を起こした。自分を見つめるヴァイオレットの背中に腕を回し、その薄紅色の唇に口付ける。

 何度も、何度も、全てを支配し奪うように、ヴァイオレットの肢体に唇を落としていった。