「答えろ。なぜ彼女は俺に、あんな顔を向ける」

 ウィリアムの腕に残るアメリアの残り香。熱に侵された彼女を抱き上げたときの、不確かな感情。
 ウィリアムはその、未だかつて感じたことのない何かに苛立ちを覚えていた。

 そんな主人に、ルイスは(なだ)めるような視線を向ける。

「ウィリアム様。確かに私がアメリア様をあなたの婚約者に推薦さえしなければ、このようなことにはならなかったでしょう。けれどアーサー様の件や、アメリア様が声を失ってしまわれたことについては、運が悪かったとしか言いようのないことでございます。ウィリアム様は最善の選択をなさったと、私は心からそう思っております」

 けれどウィリアムは、ルイスの言葉を鼻で笑った。

「――はっ、なんという戯言(ざれごと)を。ああするしかなかっただけだろう。何が最善の選択だ。運が悪かっただと? お前の口から運などという言葉が出るとは思わなかった。……俺が気付かないとでも思ったか? 全てお前の仕組んだことなのだろう!」

 ウィリアムは語気を荒げ、グラスに入ったワインをルイスに向かってぶちまけた。
 赤いワインがルイスの白いシャツに染みを作る。それはこの暗がりのせいか、まるで血のように赤黒く見えた。

 けれどルイスは顔色一つ変えない。それどころか彼は嬉しそうに、唇の端を上げる。

「ウィリアム様、覚えていらっしゃいますか。僕らが出会った日のことを。あのときあなたは、泣いていらっしゃいましたね」
「――っ」

 その言葉に、ウィリアムは肩を震わせた。急に何を言い出すんだ――と、顔をしかめる。

「あの日の約束を覚えていらっしゃいますか。あれから早くも十五年の月日が流れました。もうあなたは子供ではありません。もちろん、それは僕も同じですが……」

 ルイスの表情が、陰る。