「ああ、お嬢様……!」

 彼女は一直線に私の方へ飛び込んでくる。
 その目に大粒の涙を溜め、彼女は私を強く強く抱きしめた。

「お嬢様! お嬢様! ご無事でよかった! 本当に、無事に帰ってきてくださって……!」

 彼女はもう十分すぎるほど泣いたのだろう。その証拠に、その声は酷く掠れている。

「私――お嬢様が川に落ちたって聞いて……心配で、怖くて――もう……いても立ってもいられなくて……っ」

 嗚咽交じりのハンナの声。
 それは本当に温かくて、有難くて……同時に、彼女をこんなに心配させてしまったことがとても申し訳なくて、思わずこちらまで泣いてしまいそうになる。

 だけど私は溢れそうになる涙を抑え、精一杯に微笑んだ。
 だって、私はもう後戻りしないと決めたから。後悔しないと、決めたから。
 涙も、偽りの笑顔も、もうやめると決めたのだから。

「お嬢様……あぁ、お嬢様……っ」

 赤く腫れあがった瞼から大粒の涙をボロボロと零し、彼女は私に縋り付く。そんな彼女の背中を、私は力いっぱい抱きしめた。
 心配をかけてごめんなさいと、謝りたくて――。

「お嬢様……私、後悔していたんです。ファルマス伯爵との外出……」
「――!」

 ハンナの口から出たウィリアムの名前に、心臓が飛び跳ねる。

「お嬢様が乗り気ではないこと、本当は気付いていたのに……無理やり送り出してしまったって。――でも、今のお嬢様のお顔を見て……私、安心しました」

 ――そうだ。私が熱を出して眠ってしまっていたから、ウィリアムはきっと説明に困ったに違いない。どのように対処したのだろう。お父様に責められたりしなかっただろうか。
 ハンナの表情を見る限りでは、問題があったようには見えないけれど……。

 そんなことを考える私の両手を、ハンナの両手が優しく包み込む。