でも――私はちゃんと理解している。これはすべてルイスの策略のうちである、と。

 ルイスがどのようにしてウィリアムをその気にさせたのかはわからない。
 けれど、私を愛すると言ったウィリアムの言葉は本心ではないだろう。だってルイスの目が、そう言っているのだから。
 部屋の入り口で一人立っているルイスの瞳は、ただひたすらに(わら)っているのだから。

 でもそれがわかったところで、私にはもうどうしようもない。どうすることもできない。
 たとえ彼が、そして私が、ルイスの(てのひら)の上で踊らされているのだとしても。ウィリアムがルイスに騙されているのだとしても。

 だって私は思い出してしまったのだから。
 かつて私がエリオットから貰っていた腕の温かさを。抱きしめられたときの、この胸の高鳴りを……。

 ――ウィリアムは、ライオネルが顔を上げたのを確認して笑みを深くする。

「こちらこそ君には礼を言わねばならない立場だ。私の婚約者を――アメリアの命を救ってくれて本当に感謝している。何と礼を言ったらいいか」

 そう言って、今度は私を見つめるウィリアム。
 その視線は優しくて、温かくて……。彼の気持ちが偽りのものだったとしても、少しも構わないと……そう思ってしまう。

 私がウィリアムを見つめ返せば、優しく微笑み返してくれるウィリアム。それはまるで、かつてのエリオットのように――。

 ウィリアムはしばらく私を見つめた後、再びライオネルに向き直る。

「そうだ、君にこれを」

 そう言って彼が胸の内ポケットから取り出したのは、一枚の小切手だった。

 そこにはウィリアムのサインと共に、高額な値が記載されている。金額は――そう、私ならば一年は暮らすのに困らないほどの額。

 私は驚いたが、ライオネルはもっと驚いたようだ。
 彼は顔を強張らせ、首を大きく横に振る。