ああ、ならばどうして彼は私にウィリアムを愛せと言うのか。必ず訪れる別れを知りながら、なぜもう一度愛し合えと……。そんなの悲しすぎる。私には、堪えられない。

 でも、私に選択肢がないのもまた事実。それが彼を助ける条件だと言うのならそうするしかない。……本当に容易い条件。だって私はこの千年の間一度だって、彼のことを忘れたことはないのだから……。

 あとは私がウィリアムに愛してもらえさえすればこの呪いは解ける。でもこの呪いが解けてしまったら、私はルイスと共に彼の傍を離れることになるだろう。

 ――そんなの、嫌。……嫌よ……絶対に、嫌。

 愛されたい、愛されたい、あの人に抱きしめられたい。彼の愛しい名前を呼びたい。でもそうなってしまったら、それが本当に彼との最後になってしまう。

 どうしたらいい、私はいったいどうすればいい。あんな条件、吞まなければよかった。私を愛するあの人と離れなければならないくらいなら……いっそ全て無かったことにしてしまった方がマシだった。あの人との繋がりが無くなってしまうくらいなら……あの人の姿を見ることが叶わなくなるくらいなら……。

 ――もういっそ……逃げ出してしまおうか。

「――っ」

 心が嗚咽する。真っ黒に塗りつぶされていく。もう何も考えたくなくて、考えられなくて。
 私の中の(いにしえ)の記憶が蘇る。愛しい私のエリオット。彼の呼び声が。彼の、温もりが――。

 ――ああ、エリオットに……会いたい。

 そう思った瞬間視界に入る、ガラスに映った自分の姿。それは、忌まわしい過去の自分自身。

「……ッ!」

 気付いたときには、私は拳を高く振り上げて――窓ガラスに打ち付けていた。
 けたたましい音がして、ガラスは粉々に砕け散る。