「申し訳ございません。完全に……私情でございました」
「…………」
「……あの方のお傍に、どうしても近づきたかったのです」

 突然語られた真実に、ウィリアムは困惑を通り越して憤る。

「そのことを、彼女は――」
「お伝えしておりません」
「違う! そんなことは百も承知だ! 俺が聞きたいのは、お前の気持ちを彼女に悟られてはいないのかということだ!」
「――っ」
「全く……お前といいアーサーといい……なんと面倒なことを……」

 ウィリアムはいよいよ呆れかえった。力なく瞼を閉じて、必死に考えを巡らせる。
 いったいどうすればこの事態を収拾できるだろうか、と。

 ――そもそも、この婚約はただの契約だ。お互いがお互いを愛さないという条件で結ばれた、形だけの婚約とその先の婚姻。お互いに愛など欠片も望んではいない。――それなのに。

 こんな面倒な状況になってしまったら、彼女は婚約の白紙を提案してくることだろう。アーサーとは二度と関わりたくないと思うだろうし、ルイスの気持ちを知ればその想いはより強くなるはず。

 だがそれでは困るのだ。今さら破談など侯爵家の評判に関わってしまう。
 それにアメリアが声を無くした原因、それがアーサーだと周りに知られてはならない。そうしないためには――。

「アメリア嬢に……許しを請うしか――」

 ウィリアムはゆっくりと瞼を開いて馬車の天井を仰ぎ見ると、力無く呟いた。