自分を蔑むウィリアムの冷えた眼差し――そして信じがたいその話に、アーサーの心が闇に囚われる。ルイスとアメリア――二人の嘘を信じ込んでしまっている、ウィリアムの姿に。

 けれどこうなってしまっては、自分の言葉がウィリアムに届くことはないと、アーサーは一瞬のうちに理解していた。だから彼はウィリアムに、もう何一つ言うことができなかった。

「アーサー。君からしたら、伯爵家の娘など遊び相手くらいのものだろう。けれどたとえそうであってもこの国を支える者の一人。君の犯した間違いによって、俺の信頼が――そして我が侯爵家の信頼が揺らぐのだ。彼女のお父上はお怒りになるだろう」

 確かにウィリアムの言うとおりだ。それが真実であるのなら。

 けれど事実は違っている。彼はルイスに、そしてアメリアに騙されている。だがそれを伝えるということは、自分の力をウィリアムに知られてしまうということ。

 ――それだけは、言えない。……言いたくない。

 アーサーは奥歯を噛み締める。弁明一つできないままに――。

「……安心しろ。伯爵に君のことを伝えるつもりはない。これは俺の責任だ。彼女を君に会わせた俺の……。俺はこれからルイスと共にアメリアを迎えに行く。だが金輪際、君を彼女には会わせない。君も彼女には近付くな。もし今後彼女の前に姿を現すようなことがあれば、俺は君を、本当に許さない」

 吐き捨てるようにそう言って、アーサーを見下すウィリアムの瞳。

 アーサーはそんなウィリアムの背後に――いるはずのないルイスの姿を垣間見た気がして、ただそこに――恨めしそうな目を向けるしかなかった。