「本当に君は酷いよね。この僕をこんなところに閉じ込めて、自分だけ救われようとした。君は僕を捨てたんだ。――ほら、僕をご覧よ。君のせいで僕はあの頃の姿のまま、ずっと一人きり。いい気味だとでも思っているんでしょう?」
「……何の……話だ」

 ――背中に嫌な汗が伝う。

 ああ、これは本当に夢か? 目の前にいるこいつは、本当に俺なのか? 
 こいつはいったい――何の話をしているんだ。

 目の前の自分の話す内容に全く心当たりがなく、俺はその場に立ち尽くす。

 そんな俺を嘲笑(あざわら)うかのように、そいつはその忌まわしい赤い瞳を……怪しく光らせた。

「ねぇ、アーサー。この僕の姿を見てどう思った? 僕は君の闇だよ。誰よりも卑劣で、醜い、臆病な君自身――」
「……っ」

 心臓が早鐘(はやがね)を打つ。足が地面に縫い付けられたように、俺はただの一歩も動けない。

「アーサー。僕は、君。そして、君は僕だ。僕は今日まで一時(いっとき)として君を忘れたことはない。僕はずっと、君を見ている。これからも、永遠に。それを忘れるなよ、アーサー」
「……黙……れ」

 そいつから放たれるオーラの禍々しさに、酷い吐き気が込み上げる。

 それと同時に俺を襲う、頭が割れるような痛みと、目眩。視界が(せば)まり、俺は今にも倒れてしまいそうになる。

「忘れるな、アーサー。……僕は君を――」

 ――赤く光る右目。

 沈んでいく意識の中でそれだけが、名残惜しそうに俺の脳裏にいつまでも焼き付いていた。