彼女とはアメリアのことだろうが……彼女が無事であったことは昼のうちに確認済みだ。だがそのとき、ウィリアムは何も言っていなかった――それなのに、今さら何だと言うのか。

 ――あの後何か問題が起きたのか? 直接確認したいこととはいったい何だ……?

 頭を悩ませるアーサーを、どこか心配するヴァイオレットの声。

「アーサー様、お顔がとても怖いですわよ? 良くない知らせですの?」

 その問いかけに、アーサーはいつの間にか手紙を握り潰していたことに気付く。

「いや……ただの恋文だ」
「まぁ……。でもその様子では、あまり上手くはないようですわね」

 確かに、いいか悪いかと言われれば悪い方に違いない。便りがないのはいい便り、とはよく言ったものだ。

 アーサーは沈黙したままベッドに腰かけ、サイドテーブルのマッチで手紙に火をつけた。手紙はあっという間に跡形もなく燃え尽きる。

 それでも何一つ言おうとしないアーサーの背を、ヴァイオレットはしばらくの間悲しげに見つめていたが――ほどなくして、彼女は両手をパチンと合わせた。

「そうですわ。わたくし、傷心のアーサー様に昔話をして差し上げましょうか」
「何だ、それは」
「白い梟で思い出しましたの。この国の創世の神話ですわ」
「そんなものに興味はない」
「まぁまぁ、そんな冷たいことおっしゃらず――どうせ暇つぶしですわ」
「…………」

 アーサーは深い溜め息をつく。

 ――まぁいいか。夜明けまではまだ十分時間がある。どうせ他にやることもない。

 諦めた様子のアーサーに、ヴァイオレットは満足げに微笑みかける。

「昔むかし――まだこの地が人の住めない程に荒れ果てていた、そんな時代……」

 そして彼女はその美しく流れるような声で、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。