「僕はね、アメリア様。昔話をするのは好きじゃないんです。僕にとって過去とは、忘れてしまいたいものだから」

 彼の瞳が、私を見つめて離さない。けれどその瞳は私ではなく、もっとずっと遠くを見ているように思えて――そう、それはきっと、彼の(いにしえ)の記憶……。

「僕の正体……それは僕自身にもわかりません。僕の方こそ教えてもらいたいくらいです。死んでも記憶が消えないのはなぜなのか……どうして、僕らだけこうなのか。残念ながら、今の僕には答えることができません」

 彼は寂しげに瞳を揺らし――話を続ける。

「ですが……それでも救いはありました。アメリア様――僕は……僕の力は消えない記憶だけではないんです。僕は、僕らのような不思議な力の存在を、誰がどのような力を持っているのかを感じ取ることができる。つまり、僕は今まで沢山の同族と出会ってきたんですよ。動物と話をする青年、歌で雨を呼ぶ少女、未来を予知する女性……そんな不思議な力を持った人間と、僕は何度も出会い、共に過ごしてきた。それは束の間の救いでした。彼らと共にいるときは、僕もただの人間になれたような気がした。――でもそんな時間は長くは続かない。人は必ず死にますから。死ねば、僕を忘れてしまうから……」

 それは彼の心の叫びに聞こえた。彼の心の奥底に秘められた、本当の気持ちに思えてならなかった。

「彼らとの出会いを、共に過ごした時間を後悔したことはありません。それは僕にとって幸福な時間に違いなかったから。けれどそれでも寂しさが消えることはなかった。むしろ増すばかりだった。理屈じゃない。あなたになら、わかるでしょう?」