「……わかった。ひとまず、客間に」
「かしこまりました」

 主人の命を受け、執事は速足で部屋を去っていく。

 ライオネルはその背中を困惑げに見送って、私の方を振り向いた。
 先ほどまで穏やかだったその顔を強張らせて――彼は恐る恐る尋ねる。

「君、伯爵家のご令嬢だったの? 今、君の従者を名乗る者が来ているらしいんだけど……。ルイスという人物は、確かに君の家の者?」

 その問いに、私は自分の予想が正しかったことを思い知る。
 来るならきっと彼だろうと、心のどこかで思っていた。とはいえ、まさかこれほど早いとは思わなかったけれど……。

 そんなことを考えながら、私はペンを走らせる。

『驚かせてごめんなさい。伯爵家の娘だと知られたら、騒ぎになると思ったのよ』

 それを読んだライオネルは、戸惑いを隠せないようだった。
 不安げに視線を揺らし、躊躇うように口を開く。

「……そっか。うん、そうだよね。確かに君の言うとおりだ。でも、まさか貴族だったなんて」
『あなたの考えていること、よくわかるつもりだわ。だけど、私が貴族の娘だからって態度を変えないでほしいの。私のことはこれからも、アメリアと――そう呼んでほしい』
「――っ」

 普通ならば決して許されないその願いに、彼はすぐには答えられないようだった。

『ダメ……かしら?』
「そんな、駄目だなんてことは!」

 けれど私がダメ押しすれば、最後は頷いてくれる。

「……わかったよ。じゃあそう呼ばせてもらうね、アメリア」
『ありがとう。嬉しいわ』

 そんな彼の太陽のごとく眩しい笑顔に、私は自分の心が和らぐのを感じた。