確かに、今の私の姿形が千年前の自分と同じであることは理解している。けれどその表情は、オーラは、確かに違っていたはずだ。

 私はガラスの向こうの自分自身を凝視する。そして気が付いた。そうだ、服が違うのだ。
 今の私が着ているのは、いつもの仰々しいドレスではなく本当にシンプルな……どこにでもいる町娘の着るようなドレスである。きっとこのドレスが昔の自分を想起させるのだろう。

 私はそう自分を納得させ、今度こそ外の様子をうかがおうと焦点を遠ざけた。

 どうやらここは二階のようだ。
 眼下の景色を見下ろすと、まず視界に入るのは青い芝生の茂る広い庭と立派な門。
 その先には白で統一された美しい街並み。王都には敵わないけれど、それに匹敵するほどに栄え、賑わっている様子がうかがえる。

 そんな街の中心にそびえ立つ立派な教会。その屋根の特徴的な青と銀の配色を、私は確かに目にしたことがある。

 そうだ――まだ記憶に新しい。子供の頃一度だけお父様に連れられて見たあの教会。その配色は、アルデバラン公爵の紋である青地に銀鷲をモチーフにして塗られたものだったはず。
 つまり私が今いるここは、アルデバラン――。

 私はひとまず安堵した。アルデバランなら王都の隣。距離で言えば馬車でたった二時間ほど。大した距離ではない。

 つまりこういうことだろう。
 川に落ちた私を何者かが助け出し、手当を施した。ここはきっとその者の屋敷なのだ。
 その考えに至った私は、面倒なことになったとため息をつく。

 今頃ウィリアムは――他の皆はどうしているだろうか。まさか使用人総出で私のことを探したりはしていないだろうけれど……大ごとになっている可能性を思うと頭が痛い。

 それに心配事はもう一つ――。それは私が川に落ちる前の、湖でのアーサーとのやり取り。「ルイスには気を付けろ」というあの言葉……。

 ――やっぱりこの婚約、今からでも破棄した方がいいかもしれない……。