「ねえ、聞いてる?氷翠(ひすい)。」

その声で現実に引き戻された私は、またお弁当を箸でつつきはじめる。

「んー…何?」
「もう!ちゃんと聞いててよ!」

ぷくーっと頬を膨らませる紬(つむぎ)は、不機嫌そうに唐揚げを口に放り込んだ。 

「だーかーらっ!合コンの話っ!」
「…ああ…うーん…やめとこうかなぁ…」
「ええ〜…なんでよぉ〜っ!」

恨めしげに私を見る紬は、恐ろしく顔面偏差値が高くて、思わずクラっときてしまう。 

少し色素が薄く、光にあたると茶色に見えるふわふわの髪をゆるくツインテールにしていて、男子が守ってあげたくなるような可愛さだ。
それでも合コンだかなんだかに時間を費やしているのは、彼女の性格が見た目とは裏腹に、かなり…………

ゴリラに近いからである。

今までも彼氏がいたことはあったけど、1週間以上続いた試しがない。

「氷翠がいたら絶対盛り上がるのに〜…っ!」

そういう彼女は、絶対私を買い被りすぎだ。ていうか、社交辞令?お世辞?そんなもん。

小さな頃からずっと一緒だった紬とは、かなり腐れ縁で、そのせいか小学生から高2まで、ずっと同じクラスだ。

「私は…まだそういうのはいいかな。」

紬が私を見る視線が痛くて、私は下を向き、じっと耐え忍ぶ。

「まぁ、いーよ、別に。無理して氷翠に行かせるつもりじゃなかったもん。」

紬の気遣いが心に染みて、私はじーんときてしまう。

「うぅ〜…つむぎいぃ…っ!」
「氷翠が彼氏欲しくなったらいつでも紹介するからねっ!」

任せろ!とでも言いたげな紬のその言葉に、私は幾分か楽になる。

自分の味方がいるっていうだけでこんなに心が嬉しくなっちゃうなんて、単純かな。だけど、それ自体、前までの私にはありえない事だったから、当たり前っていえばそうなのかも。

「お、氷翠、今日のお弁当美味しそう!自分で作ったの?」
「え、今さら?笑」
「えへへ〜っ」
「まぁいいや。うん、朝起きて作ったの。」
「うぅ〜…いーなぁ…お母さん、私の苦手な物入れるんだもん。一人暮らしだったら自分の好きな物ばっかり入れられるもん
…」

ずきっ

胸がちくりと痛んだけれど、私は何もなかったかのように振る舞う。

「あー…確かにね笑 私自分の好きな物しか入れないかも笑」
「い〜なぁ〜っ!」