妖しく微笑むヴァンパイア




「え……?」



 呆然とする由良にかろうじて意識があった璃斗は、
 弱々しく「ごめん」と呟いて、そのまま由良の方へ倒れ込む。

 咄嗟に抱き抱えるも、じわじわと赤色が由良の制服にも浸食してきた。

 由良の中で、ヴァンパイアの血がドクンドクンと騒ぐ。



「ど、どうして……⁉︎」
「……鏡が、肩に当たって……」
「そんな……!」



 どうやら壁から外れた姿見が璃斗の肩に当たり、
 同時に割れた鏡の破片で首を負傷したようだ。

 こうしている今も容赦なく血は溢れ出て、
 あんなに元気だった璃斗の顔色がみるみるうちに青白くなる。


 このままでは璃斗の命が危ない。

 しかし先生方が駆けつける気配は未だになく、自分のスマホから救急車を呼ぶしか――。
 由良は床に落ちる鞄に目を向けたが、手を伸ばす前にぐっと唇を噛んだ。


 大きな地震が発生した後だから、救急車を求めてる人は大勢いるかもしれない。

 仮に119番したとして、到着までに璃斗の止血が間に合わなければ……意味がない。



(……そんな、いやだ……)



 目の前で苦しむ璃斗の顔を見ていると、自然と視界がぼやけてきた。