五歳の私は、一日中泥団子を作っているような女の子だった。周りの女の子たちはみんなおままごとに夢中だったけれど、私は興味がなくて。ひとり運動場の隅で、せっせと砂をかけてただの泥を光らせようと頑張っていた。そんな私に親しくしてくれる子はいなくて、保育園の先生にも「大人しいお子さんですね」ってお母さんはよく言われていたらしい。
ある日、いつものように団子に砂をかけていたら、突然ドンっと背中に重みが走った。
「あ……ごめんなさい」
振り向くと、ボールを手に持った男の子が少し表情を崩して謝ってくれていた。でもそのときにはもう、私が作った泥団子はただの泥と砂と化していて。
「うわあぁぁん」
それに気づいた私は思わず泣き出してしまったんだよね。横で男の子がすごく申し訳なさそうな顔をしていたのに私は気づいていたけれど、あのときの私は我慢できなくて。
その泥団子は、お母さんにあげるために一週間、大切に磨いてきたものだったから。何回も何回も砂をかけては払って、輝くような姿に嬉しくなって。すごく気に入っていたものだったんだ。
「ごめんね」
泣き続ける私をどうしたらいいのかわからなくなったのか、男の子はもう一度謝ってから友達のいる方へ駆けて行った。
だけどすぐにすたすたと足音がして男の子が帰ってきたのかと思ったら、違う男の子が隣に座ってきた。
「大丈夫?僕も一緒に作るよ。もう一回、作ろ?」
くりくりとした大きな目を細めてにっこりと笑いかけてくれた君。そう、それがハルト君だった。
「……うんっ!」
その笑顔が眩しくて、私は涙でぐちゃぐちゃの顔も気にせずに頷いた。
ハルト君の言葉は優しさが滲み出ていて、子ども心ながらにキュンとしたんだ。紛れもなく、私の初恋だったよ。

それから保育園を卒園して、小学校と中学校は同じ学校になることはなかった。その間に、三回小さな恋をしたりもして。
中学を卒業して高校入学を控えるこの春休み、君を再び思い出したよ。
君は今、元気に過ごしているのかな?