「っ…!?」
目を覚ました椿薆(つばき)の瞳に最初に飛び込んで来たのは、心配そうに自分を見つめる銀原(ぎんばら)さんの顔だった。椿薆はとっさに頭を力強く抱えると、逃げるようにベッドから転がり落ちてしまった。
「あぁっ…すまない、大丈夫かい?私だ。銀原だよ。頭は打っていないかな?」
反射的に逃げてしまった椿薆に、申し訳なさそうにゆっくりと近寄る。椿薆は自分の髪の毛を、両手で力いっぱい引っ張りながら、銀原に笑顔を向けた。
「大丈夫か、良かった。そしたらゆっくり両手を離そう。」
そう言うと、椿薆はハッとしたような表情をし、すぐに両手を離した。
「朝ご飯が出来ているよ。冷めないうちに食べにおいで。」
銀原はにっこり微笑むと、椿薆の部屋を出て行った。椿薆は、部屋着に着替えて顔を洗うと、すぐに一階へ向かった。大きなテーブルには、ほかほかのクロワッサンが一つ置いてある。椿薆が椅子に座り、クロワッサンをじっと見つめて匂いを嗅ぐ。そして可愛らしい笑顔になった。
「美味しそうだろう?クロワッサンにハチミツをかけているんだ。」
椿薆はコクリと頷くと、両手を合わせて軽くお辞儀をし、クロワッサンに大きくかぶりついた。すると椿薆の顔は、万遍の笑みへと変わった。その様子を見て銀原も笑顔になった。
「そういえば、急に伝えて申し訳ないんだが、二人の執事を雇う事にしたんだ。二人は二十一歳の男で、ベテラン執事の指導の元、執事の特訓をしてきた人だよ。勉強している人達は全員で三十名程いたが、その中で一番椿薆を大切にしてくれそうな人を選んだんだ。」
椿薆は、少し不安そうな表情を浮かべた。そして黄緑色のガラケーを取り出した。何かを打ち込むと、銀原に画面を見せる。