幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。



 那桜は優しく微笑んで、私を引き寄せてぎゅっと抱きしめてくれる。私も那桜の背中に腕を回し、抱きしめ返す。
 それだけですごく幸せ。


「鏡花、こっち向いて」

「っ!」


 くいっと顎を持ち上げられて、那桜と目が合う。
 那桜に見つめられるのは苦手だった。でも今は――那桜の漆黒の瞳に私だけが映っているのが、ドキドキして嬉しくてたまらない。


「ん……っ」


 ファーストキスは最悪だった。
 ムカつきすぎて那桜なんか大嫌いって思ってたのに。

 今はキスする度に愛おしくて愛おしくてたまらなくなる。


「那桜……すき」

「鏡花、」


 もう一度那桜の手が私の頬に触れて、再び唇が近づこうとして――、


「あっ!!思い出した!!」


 私は急に思い出したのだった。


「忘れてた!那桜に渡したいものあったんだよっ」

「……このタイミングで言います?」

「だって忘れたら嫌じゃん」


 私は鞄の中からあるものを取り出す。
 手のひらよりちょっと大きいくらいの小さめの箱。


「その、だいぶ遅くなっちゃったけど……誕生日おめでとう」

「え……」


 今更だけど、ちゃんとお祝いしてなかったなと思って、那桜のいない夏休み中に買った。


「まさかもらえると思ってませんでした。ありがとうございます」

「た、大したものじゃないけどっ」