あの婚約パーティーから一夜明け、那桜は学校に復帰した。
 放課後、誰もいない屋上で私は那桜から今までのことを聞いた。

 これまでずっと裏の取締役として染井一家をまとめ上げていた美咲さんは、一旦表舞台からは退くことになった。
 しばらくは療養といった形で静かに休むみたい。


「父に無理矢理連れ戻され、待っていたのは憔悴した母でした。はっきり言って、だいぶ様子がおかしかった」


『那桜……あなたまで私の前からいなくなったりしないわよね?私を置いて行ったりしないわよね?』


「そんな母を見ていたら、何も言えなくなってしまって。しばらくは母の傍についていることにしたんです」

「そうだったんだ……」


 美咲さんは当時美桜さんとパパの交際に強く反対した。
 美桜さんのことを思ってのことだったけど、つい強い口調で美桜さんを責めてしまったらしい。美桜さんはとても悲しそうにしていたそう。

 それが姉妹の最後の会話となり、翌日美桜さんは帰らぬ人となった。
 美桜さんを追い込んだのは自分だと、ずっと美咲さんは自分を責め続けて苦しんだ。


「この話を父から聞いて、父は母のために俺たちのことを反対しているのだと思いました。母と美桜さんの世話役だった父もまた、美桜さんを守り切れなかったことを悔やんでいるのだと。
でも、美桜さんは二人がずっと苦しんでいることは望んでいない。それは日記を読んでわかりました」