「――美咲、もうやめよう」


 パパに続いて、那桜の父・義徳さんが美咲さんの肩に手を置く。


「もう、いいじゃないか。君だって本当はわかっているのだろう?
美桜お嬢さんが、本当は何を望んでいたのか」

「……っ、う……っ」


 義徳さんの言葉に、美咲さんは泣き崩れる。
 そんな美咲さんを義徳さんは支えながら、那桜と私の方を真っ直ぐ見つめた。


「那桜、そんなに言うならお前の好きにしろ。母さんのことは心配しなくていいから」

「親父……」

「桜花のお嬢さん」

「は、はいっ」


 急に名前を呼ばれて思わずシャンと背筋を伸ばす。


「息子をよろしく頼む」


 そう言って義徳さんは美咲さんを支えながら、会場を後にした。私は二人の後ろ姿に向かって叫んだ。


「ありがとうございます!!」


 それからパパの方にも向き直る。


「パパもありがとう……っ」

「ありがとうございます。鏡花のことは、必ず幸せにします」


 那桜は力強くそう言い切ってくれた。


「……絶対だぞ」

「はい」

「那桜……っ」


 私は那桜の顔を見て、ボロボロと涙が溢れ出る。今まで我慢していた分、もう止められなかった。


「那桜〜〜っ!」

「鏡花……」


 よかった。本当によかった……!
 私たちはきつく強く抱きしめ合う。お互いの温もりを確かめ合うみたいに。
 人前であることも忘れ、ただぎゅっと抱きしめ合った。

 やがて周囲からパラパラと拍手が湧き起こる。


「よかった……本当によかったですわ……っ」
「そうっすね」
「……悠生さんは、大丈夫ですの?」
「何がっすか?俺はお嬢が笑顔でいられたらいいんすよ。

――それに、あんな幸せそうなお嬢の笑顔、初めて見ました」