ラブ・ジェネレーション


逢魔時って言ってただろうか、
翔琉が教えてくれたけど、私の耳は右から左にそのまま何の痕跡も残さずに通り抜ける特技を持っている、

夕暮れ時、陽が落ちてから真っ黒な闇が包み込むまでの僅かな時間のことだ、
堤防の上を二人並んで帰る途中だった、

会話が途切れ、気まずさに襲われかけた次の瞬間、
『結衣こっち‼︎』って、急に私の手を掴んで土手を滑り降りたかと思うと、
突然のことに芝生の上で呆気に取られて動かない私に、翔琉は不器用に唇を重ねた。

それは、つい昨日のことのように甦る、

忘れるわけがない、私のファーストキスだったんだから、胸のドキドキが止まらなかった。
翔琉も初めてだったのだろうか、ぎこちなさが伝わるぐらい緊張していた。


「ねぇ、どうして私だったの?」

「一目惚れに理由なんかないし」

「嘘ばっか、私に惚れる男の子なんているわけないじゃない!」


劣等感は高校生になっても消えないでいた、
チビで童顔な私は、恋愛とは無縁の中学時代を過ごしてきたからだ。

「ここに一人いるだろう」

「変な趣味! 翔琉は美意識がズレてるよ」

心にも無く捻くれた言い方をしてしまう、翔琉の言葉を素直に受け取ることができないのは何故だろう、
最近はそんな自分が嫌いになりかけていた。


あッ‼︎

突然振り上げられた手に目を瞑り顔をしかめた、叩かれると思ったその直後、掌の代わりに力強い腕が私の躰を抱きしめていた。

翔琉が女の子に手を挙げることなんてない……か、
今までもなかったし、きっとこれからも。

私を抱きしめる時の力加減は申し分ないと思う、強すぎず弱すぎず、いつまでもこうしていたいと思わせるほど優しい。