「いいよ、考えておいてくれる」


彼はそう言って、何事もなかったかのように傍に生えていたタンポポの綿毛をそっと指で摘んで口元に寄せると、勢いよく一気に息を吹きかけた、

離ればなれに飛び立つ種は、川面を渡る春風に乗って高く舞い上がる、
「頑張れよー!」って、まるで遠く旅立つ友達みたいに応援していた。


「結衣、これを見て」

彼は少し物憂げな表情で自分の手元を見つめていた、
手元の茎には、まだ飛べ立てない種が数個残っていたからだろうか、

「きっと怖いんだよ、私みたいに自信がないから飛び立てないのかも」

「違うんだ、結衣はタンポポの恋占いを知らない?」

「知らなーい、今まで恋占いをする必要もなかったから」

「一息ですべての種が飛ばなきゃ、その恋は成就しないんだ」

「そうなの? じゃあ進藤くんと私は駄目ってことだね、付き合う前に分かって良かったじゃない」
そう言いながらも、少し残念な気持ちになる私はやっぱり彼に興味あるのだろうか、

進藤くんは大袈裟に大きく首を横に振った、
「大丈夫だよ、ほんの少しの勇気を出せばきっと明日は変わるさ」

まるで私に投げかけられたような言葉だった、
自分に自信が持てない私に勇気を出せって聞こえてしまう。

進藤くんがもう一度息を吹きかけると、
残された種は、先に飛びだった仲間を追いかけるように風に乗る、

上下左右にぶれながらも、真っ青な春空に高く小さく遠ざかっていった。


っていうか誤魔化すな、恋占いはどこに行っちゃったんですか、、

まぁいいか、、


頑張れー

少し遅れて旅立った綿毛は自分の分身のような気がして、私も心の中でエールを送った。