暑い。暑すぎる。バスの中って普通エアコンが効いているはずなのに!
私、瀬野琳花は、高校に行くバスの中が暑いことに、少し苛立ち始めていた。朝の通勤ラッシュの時間と重なることもあり、より暑さを増している。
ああ、もう!せっかく今日から夏服だっていうのに、汗のせいで台無しじゃん。まあ、自分が寝坊して、いつもより1本遅いバスで来たのが1番の原因だとは、自分でも分かっているのだけれど。

最後まで砂漠にいるかのような暑さだったバスを降りて(砂漠に行ったことはない)、学校までの道を急ぐ。急がないと、このままでは遅刻してしまう。少し歩くスピードを速めると、頭にポツっと何かが降ってきた。
「うわー雨降ってきたし。今日天気予報晴れだったのに」
でも、私は、こういう時のために、日頃から折りたたみ傘を持ち歩いてるのだ。えっと、確か鞄の底の方に…
「あれ?」
ない。傘がない。ない。嘘…
「あっ!」
思い出した。この前、重い鞄を少しでも軽くしようと、学校のロッカーに置いてきたんだった。
「最悪…どうしよう」
このまま学校まで歩けば、全身ずぶ濡れになるだろう。私の通学路は、運が悪いことに、雨をしのいで行けるような道はほとんどない。
もう、このまま行くしかないか。
そう、諦めかけた時…

「傘、持ってないの?」
上から声が降ってきた。今隣には、見慣れた私の高校の男子の制服が。見上げると、見覚えのない男子が私の顔をのぞき込んで、不思議そうにしていた。

「琳花!琳花が遅刻ギリギリなんて珍しいじゃん!」
学校に着いて教室に入るなり、いつも一緒にいる林田玲華が話しかけてきた。
「ちょっと寝坊しちゃってさー」
「どうせまた昨日ドラマ見てそのまま起きちゃてったんでしょー」
図星だ。玲華は勘が鋭い。
「その反応、図星でしょ。これからは気をつけてね!今日学校来ないかと思ったんだから」

なんだかんだ言って心配してくれている玲華に軽く返事を返してから、鞄の荷物を整理を始めた。