シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜

 相変わらず母親は男運が悪く、付き合ってはケンカして別れてを繰り返しているし、それゆえに家では常に母親に気を遣い、居心地は悪い。
 親からの愛情をろくに受け取ったことがないから、自分がひどく劣った人間に思えて、暗い気持ちになることも多々。
 でもこんな私でも、好きになってくれた人がいる。大切に思ってくれる人がいる。
 准くんに愛されているという事実が、私の自信になり、希望になっていることには間違いなかった。

「よかった。じゃあきっと、蒼もよろこんでるね」
「……そうだといいな」

 杏香の瞳が微かに潤んだ。
 私はそれに気づかないふりをしながら、明るくうなずく。
 ――ねぇ、蒼。これから先、准くんと過ごす時間が長くなればなるほど、あなたとの記憶は薄れていってしまうかもしれない。
 蒼とは得られなかった、身体と身体が触れ合うよろこびや、それによって心が満たされる瞬間が、これまで積み重ねてきた十年近くの時間を凌駕し、真実の愛情として上書きされていく。
 ……薄情なのかもしれない。でもそれでいいんだよね? 正しいんでしょう?
 蒼、あなたへ愛情を抱いていたことさえも忘れてしまうくらいに、私は准くんを愛して、幸せになる。
 それが、私の大好きなあなたの願いだったから。
 
 そのとき、ポケットに入れていたスマホが震えた。
 届いたメッセージを開封する。差出人は准くんだ。
 
『ずっと一緒にいたのに、碧ちゃんが足りない。今日も授業のあと、会えるかな?』

 准くんも同じ気持ちでいてくれたことがうれしい。
 すぐに『私も会いたい』と返信をする。
 今朝の、准くんの唇や腕の温もりを思い出しながら、私は彼との時間を心待ちにするのだった――