「――第一、あんたがそんなこの世の終わりみたいに悩んでるのって、いつも蒼の話だから」

 彼女の、トレンドっぽいメイクの施された猫みたいな目がきらりと光る。
 野暮ったい私とは違い、緩く巻かれた艶のある茶髪や長めのジェルネイルなど、彼女はいつも身ぎれいにしている。

「……さすがだよ。杏香は私のことわかってるね」

 最近、気が付くといつもこのことが頭を回っている。蒼との、これからのこと。

「――先の見えない関係って、つらいなって」
「……うん」

 私がぽつりとつぶやくと、杏香が神妙にうなずきを落とした。
 蒼は私の大切な人だ。彼とは、小さなころからずっと一緒に生きてきた。
 幼い私はいつも不安で、愛情に飢えていたけれど、ここまでどうにかやってこれたのは彼のおかげだ。
 頼れる大人もいないなか、蒼だけがいちばん近くで私を支えて、「僕がいるから」と頼もしく守り続けてくれた。
 一歳年下なのに、まるで兄みたいに。

 いつしか私は、蒼に恋をしていた。
 好きになってはいけない人だとわかっていたけれど、止められなかった。
 想いを打ち明けたのは高二のときだ。それまでは必死に、自分の気持ちから目を背けようとしていたけれど、普段から生活をともにしていると、むしろ思いは募る一方で……なかったことにはできなかった。
 玉砕覚悟で告白したとき、意外な返事が返ってきた。
 なんと、蒼も私のことが好きだったと言うのだ。
 うれしい反面、戸惑った。告白したはいいけれど、その先のことなんてなにも考えていなかったから。
 普通のカップルなら、想いが通じ合ったらお付き合いをはじめるのだろう。
 そこから信頼関係を築いて、特別な思い出を重ねて――この人以外に人生のパートナーは考えられない、となったら結婚をして、家庭を作る。
 私たちもそんな風にできるなら、どんなによかったことか。
 ……どんなに愛し合っても、私たちは決して結ばれない。
 私と蒼は、お付き合いすることも、結婚することも許されない関係なのだから。